第3章 調査兵団
「訓練兵整列! 壇上正面に倣え!」
調査兵団の新兵勧誘式の日。
マヤはリーゼと、壇上の調査兵団団長を見上げていた。
「私は調査兵団団長エルヴィン・スミス。調査兵団の活動方針を、王に託された立場にある。所属兵団を選択する本日、私が諸君らに話すのはやはり、調査兵団の勧誘に他ならない」
朗々とした声で勧誘を始めたエルヴィン団長の背後に、一人の小柄な男性兵士が腕を組んで控えている。
マヤはその兵士の様子に、違和感を抱いた。
何故なら彼はつまらなそうに、そっぽを向いていたからだ。
……団長さんが壇上で勧誘しているのに、あの人はそんなことには全く興味がなさそう… なんのためにこの場にいるのだろう… よくわからない人だな…。
それがその小柄な男性兵士に対する、マヤの第一印象だった。
「調査兵団は常に人材を求めている。ウォール・マリアを奪還すべく兵站拠点を作るための壁外調査では、毎回多数の死者が出ている。したがって慢性的に人員が不足している」
エルヴィン団長の声が響く。
「隠したりはしない。今期の新兵調査兵も一か月後の壁外調査に参加してもらう」
「新兵が最初の壁外遠征で死亡する確率は、5割といったところか…」
直立不動の訓練兵たちは皆、エルヴィン団長の語る現実に凍りついている。
「それを越えた者が、生存率の高い優秀な兵士となっていくのだ」
団長は、大きく息を吸った。
「この惨状を知った上で自分の命を賭してもやるという者は、この場に残ってくれ」
マヤは自分の唾を飲みこむ音を、はっきりと我が耳で聞いた。
「もう一度言う…。調査兵団に入るためにこの場に残る者は、近々ほとんど死ぬだろう。自分に聞いてみてくれ、人類のために心臓を捧げることができるのかを。以上だ。他の兵団の志願者は解散したまえ」