第15章 壁外調査までのいろいろ
ペトラは深々と頭を下げているマヤの方に体を伸ばし、ぽんとその肩を叩いた。
「もういいよ、顔上げて。……それより続きを教えて?」
顔を上げたマヤの琥珀色の瞳に、ペトラの薄い茶色の瞳が絡む。
「“女なんて抱きたいときに抱ければいい” って思ってるんですよね?って訊いたんだよね? 兵長はなんて答えたの?」
「兵長は “そのとおりだ” って認めた」
去っていく黒い背中を思い出し、ずきんと胸が痛む。
「……やっぱりそうなんだね。それで?」
「ちょうど部屋の前だったし、それで終わりだけど…」
「ふぅん…」
しばらく何かを考えている様子のペトラに、マヤは声をかける。
「……ショックだよね?」
「うーん、ショックっていうか…。マヤにもそう言うんだって感じ?」
「ん?」
「もともとはエルドさんとの会話での言葉だし。ほら… 男同士だからってのもあったのかなって。でも女のマヤにも言うんだったら、本当にそう思ってるってことなのかなって……」
ペトラはそう言いながらも、違う… そうじゃないと思った。
男同士だからとか、女に対してだからとか… そうじゃない。
マヤだから。
……兵長は、マヤには違う態度を取る気がしたんだ。
だってあの日食堂でマヤを見ていた兵長のあの目…。あのとき感じた何かが本当だったならば、兵長がマヤに “女なんて抱きたいときに抱ければいい” なんて言うはずがない。
……勘違いだったのかな…。
あれ? 何か忘れている。
あ、そうだ。そもそもミケ分隊長に嗅がれていたことに隙を見せるなと怒った?
……何よそれ。……どうして怒るの?
ペトラはまとまらない考えに苛立ち、眉間に皺を寄せていた。