第15章 壁外調査までのいろいろ
「ミケ分隊長も香りが違うって言ってた。やっぱり王都のお菓子屋さんは材料からして上等なんだろうね」
「ほんとほんと! もう手が止まらないんだけど…」
小皿のクッキーが次々とペトラの口の中に消えていく。
「全部食べちゃっていいよ」
「いいの?」
「うん」
……こんなにペトラが喜ぶなら…。
マヤはそう思って、クッキーに伸ばしかけた右手を引っこめた。
「……そうそうマヤ」
口中をクッキーでいっぱいにしながらペトラが切り出す。
「ハンジさんから聞いたよ~。飲み会での話」
「あはは…」
「みんなを好きだって言ったり、寝て起きたと思ったら泣いたりで忙しかったんだって?」
「……そうみたい。あんまり覚えてない…」
顔を赤らめるマヤにペトラはさらにクッキーをつまみながら。
「でもめずらしいよね、マヤがそんなに酔うなんて。私、見たことないわ… マヤの酔っぱらってるところ」
「だって初めてだもん… あんなに酔うの」
「そっか、そうだよね。当たり前のことだけど…」
そこまで言いかけて口をつぐんでしまったが、すぐにつづけた。
「飲みすぎたら… 酔いつぶれるものだよね」
ペトラが酔っぱらった夜のことを思い出し、マヤは胸が痛んだ。
……ペトラ…。
そして目の前でうなだれている彼女に言わなければ… と手にしていたカップを置いた。
「あのね… ペトラ」
顔を上げた薄い茶色の瞳が、かすかに潤い揺れていた。
「私、謝らないといけないことがあるの」
「ん? 何…? そんな急にあらたまっちゃって怖いんだけど?」
わざと茶化すような声でペトラは先をうながした。