第15章 壁外調査までのいろいろ
……捕獲は想像以上に危険が伴う。大事な部下を失う訳にはいかない。
ミケ分隊長の力強い声にマヤは心からの感謝の念を感じ、頭を下げた。
「分隊長が一緒だったら心強いです。よろしくお願いします」
「あぁ。これまでに編成された捕獲班で生き残っているのは、ハンジとモブリットとケイジ… それにアーベルだけだからな…」
「そうなんですか…」
顔を曇らせたマヤの声は、心なしか震えている。
「心配しないでいい。俺が入る。無論、気は引きしめないといけないが」
「はい」
リヴァイ兵長に次ぐ調査兵団第二の実力の持ち主の声に、安心感を覚える。
「ところでマヤ、ハンジが出した “ある条件” とはなんだ?」
「それは…」
ほんの少しマヤはもじもじしていたが、しっかりと答えた。
「飲み会の次の日、私… 途中から何も覚えてなくて…。そうしたらハンジさんが、何があったか教えてくれる代わりに巨人の生け捕りに賛成しろって…」
「なるほどな。……そんなところだろうとは思っていた」
「……ですよね」
苦笑いをするマヤにミケも応じる。
「何も覚えていないのはハンジのせいなのに、災難だったな」
「ええ… まぁ…。でも今はちゃんとやる気でいますから」
「そうだな、やるとなったらやらないとな」
「はい!」
元気な返事を聞きながらミケは残りの紅茶を飲み干し、手許の新聞に目を落とす。
マヤはクッキーをつまんでは甘いものに満たされる幸せを感じ、愛おしそうに紅茶の入ったマグカップを両手で持って少しずつ飲んだ。
開け放たれた窓からは初夏の風が草の匂いをかすかに運び、レースのカーテンがやわらかく揺れている。
その気配でマヤは今日の天気が雲ひとつなく晴れていることを知った。
……空が、綺麗な青…。
窓の外を眺めているマヤの無垢な顔に気づいたミケは、このまま時が止まればいいと思う。
束の間見惚れていたが、執務机の上の書類に視線を移し目を閉じた。
「そろそろ執務に戻ろうか」
「はい」
かちゃかちゃと食器を片づける音がして、マヤは部屋を出ていった。
まぶたを開けそっとマヤが見ていた空を振り仰ぐと、その曇りのない青がやけにまぶしくて… ミケは目を細めることしかできなかった。