第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「……そんな…」
タキゾノの重い言葉を聞いたマヤの表情は暗い。
初めて知る東洋人という人たちのこと。
今までのマヤの周りにはいなかった。クロルバ区にも西方訓練兵団にも調査兵団にも。
目の前にいる年老いたタキゾノの顔立ちは、そういわれて見れば、少しエキゾチックかもしれない。
艶のある豊かな黒髪を見たことのない形に結い上げている。肌はわずかに黄味を帯び、少々つり上がった目は上品な猫のようだ。
そのタキゾノに流れているのが東洋の血。その東洋の血を引く者たちが迫害され、命を落としたこと。
理由はわからないが、悲しい。
「どうして迫害されたんですか?」
「さぁ…、わかりませぬ。今も昔も迫害を受ける者は、その理由もわからず、自身ではどうすることもできない状況に追いこまれるのですなぁ…」
「そうですか…。ごめんなさい、私… 東洋の人のことを全然知らなくて…」
「マヤ様が気に病むことはありません。今、お知りになったじゃありませんか…。それで充分です。さぁ、お顔を上げてくださいなぁ。この掛軸の話をいたしましょう」
「……はい」
顔を上げたマヤの瞳に映ったのは、優しい目をしたタキゾノに、その隣に立っているにこやかな顔をしたカズオだった。
「お嬢さん、タキゾノの祖先の東洋人は迫害され、数を減らしたかもしれんが、ここにタキゾノが生きて立っておる。それだけでわしは幸せですなぁ」
そう言いながら微笑み合うカズオとタキゾノは、まるで出会ったころのような若い恋人同士に見えた。
そのいくつになっても初々しく愛し合う二人の様子に心を動かされたマヤは、前向きな気持ちでタキゾノの話を聞く気になれた。
「わたくしの祖母が東洋人ですので、ここにはその名残のものが幾つかございます。この家屋もそうです。わたくしがまだ幼かったころには、客室にタタミというものが敷いてありましたが、母の時代にそれはなくしてしまいました。残ったもの、残らなかったもの…、色々ありますが、この掛軸は残ったもののなかでも特にわたくしが気に入っているものでございますなぁ」
愛おしいものを慈しむタキゾノの顔は、先ほど東洋人の事情を話していたときとは打って変わって晴れやかに輝いている。