第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
それはマヤが今までの人生で目にしてきた絵画とは、一線を画していた。
マヤが知っている絵画は、横長にしろ縦長にしろ極端にどちらかが長いというものはなかった。
だが、どうだろう。
このロビーの壁に飾られている絵画のようなものは、非常に縦に細長い。
そしてその縦長のキャンバスは、これまたマヤの知っているような頑丈な額縁はなく、薄い紙の巻物を広げたような繊細なものだ。
……こんな絵は初めてだわ…。
不思議な形状の絵に惹きつけられる。
もちろん惹かれる理由はその形状だけではない。
絵なのだから、描かれているもの自体が最大限に心を揺さぶるのだ。
その絵に描かれているものは…。
「兵長…」
リヴァイはマヤに名を呼ばれる前から、当然のごとく気づいていた。マヤが壁の絵に心を奪われていることに。
「あぁ、いい絵だな」
「……夕陽の丘を思い出すわ…」
それは、茜に染まる果てしなき空を飛んでゆく白き鳥。その空の色と、自由に向かって飛んでいくような鳥の羽ばたきの力強さがダイレクトに伝わってきて胸を打つ。
「お気に召しましたかな?」
リヴァイとマヤの様子に気づいたカズオが訊いてくる。
「ええ、鳥の白い羽に夕陽が映えて…。美しいです」
マヤが素直に絵の感想を述べている横で、リヴァイがつぶやいた。
「やけに細長ぇな…」
すぐにカズオが反応した。
「これは “掛軸” というものですなぁ」
「「……カケジク?」」
聞いたことのない単語に声を合わせてしまうリヴァイとマヤ。
「実はタキゾノのご先祖が東洋人なのです」
「東洋人…」
次々と出てくる聞き慣れない言葉に戸惑うばかりのマヤだが、リヴァイはどうやら知っているらしい。
「昔いたという東洋の一族か…。なぜか数を減らし、今では出会えるのは奇跡に近いと聞くが」
「左様でございます。わたくしの祖母は東洋人だったそうです。このような奥深い山で暮らしておりますので祖母は天命を全うしましたが、他の東洋人の多くは迫害され命を落としたと聞いておりますでなぁ。今では兵士長のおっしゃるとおり奇跡に近い数しか、東洋の血を継ぐ者は生き残っていないことでしょう」
粛々と東洋人の現状を語るタキゾノの声は、低く静かにロビーに響く。