第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「掛軸は東洋に伝わるものでございます。絵画のみならず書といって文字を芸術として表現したものも、このように仕立て上げて壁や床の間に掛けますなぁ」
「……トコノマ…?」
案の定マヤが怪訝な声を出す。
「東洋の格式ある部屋の形状でございますなぁ。床よりも一段高くなっておりまして、そこの壁に掛軸を掛けたり、床に壺や花瓶を置いて鑑賞いたします。掛軸はこの形状が最大の特徴ですなぁ。簡単に掛けて外して、くるくると巻いて。カズオさん?」
タキゾノが名を呼ぶだけでカズオは彼女が何を欲したのか瞬時に理解して、実行に移した。
飾り棚の下部にある観音扉を開ける。そこには綺麗に巻かれて筒状になった数十幅もの掛軸が、収納されていた。
「うわぁ、たくさん!」
「東洋では季節ごとに、またお客様のお好みに合わせて掛軸を掛け替えます。いくつあってもよいのですが、残念なことに新しい掛軸を手に入れることはできませぬゆえ、ご先祖から代々受け継いだこの掛軸たちを後生大事にいたしておりますなぁ」
そう説明しながら、整理整頓されて収納されている掛軸を愛おしそうに眺めている。
「額縁の絵画だと収納するのにも場所をとりますのでなぁ、掛軸はそういう意味でも東洋の誇る芸術でございます」
「本当に素晴らしいですね、掛軸は。それでこの夕陽の鳥の掛軸は、私たちのために掛けてくださったのですか?」
客の好みで掛け替えるということなので、早速訊いてみる。
「いいえ、これに限っては違いますなぁ。これはわたくしが一番愛している掛軸ですので、年中こちらに掛けて眺めております」
「タキゾノさんが一番好きな掛軸なんですね。私もすごく好きです。兵舎のそばの街にある丘で…」
マヤはちらりと隣にいるリヴァイを見てから、少し恥ずかしそうにつづけた。
「兵長と一緒に見た夕陽と似ています。そこではこの白い鳥とは違って鳶(とび)ですけど…、あれ…?」
掛軸の中で夕陽に向かって飛んでいる白い鳥を見ていたマヤは、違和感を抱いて首をかしげた。
「……一羽じゃない…?」