第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「椿の万年筆だなんて素敵だわ…」
マヤがふうっと感嘆のため息をついて手の中の逸品を見つめていると、タキゾノがお茶を運んできた。
「お待たせいたしました」
取っ手のない白磁のティーカップ&ソーサーから、爽やかな香りの湯気が上っている。
かちゃかちゃと手際よくリヴァイとマヤの前にお茶をならべたタキゾノの笑顔が、湯気越しに揺れている。
「椿茶でございます」
「……椿!?」
思わず声が出るマヤ。すぐに隣に座るリヴァイを見上げる。
「椿茶は初めてです。兵長は…?」
「俺も知らねぇ」
紅茶に関しては自負のあるリヴァイとマヤが、互いに知らないと首を振る。
「ここらは山椿が多いんです。花を楽しむだけでなく、葉はお茶に、幹や枝は木工品に、そして実のなかの種子を搾って椿油が取れますなぁ。ほんに万能ですわ」
「そうなんですね。……いただきます」
紅茶屋の娘であるマヤは早く未知の椿茶を飲みたくて、タキゾノの話に打つ相槌もそこそこに手を合わせた。
まずは香り。
立ち昇る熱い湯気ははっきりと椿の花の香をまとい、嗅ごうと近づけた鼻こうを爽やかに抜けていく。
静かに白磁のティーカップをくちびるに近づけて、ゆっくりと飲んでみる。
「甘い…」
砂糖の甘味ではない。初めて知るかすかな自然の甘さが、確実に知っている紅茶をベースに口の中で広がった。
不思議な感覚にリヴァイを見れば、リヴァイも眉間に皺を寄せて考えこんでいる。
「確かに甘ぇな…。これが椿か」
「左様でございます。椿の葉は花同様に甘いので、細かく切ったものを炒っただけで椿茶のできあがりですなぁ。ただ飲み慣れていないと、初めは戸惑う方もいらっしゃるので、うちでは少しだけ紅茶をブレンドして焙煎しております。飲み慣れた紅茶の味を感じると、舌が安心しますからなぁ」
タキゾノの説明を聞いたリヴァイとマヤは顔を見合わせた。
「……わかったか?」
「はい、多分…。椿の水色はわからないけど、この薄い琥珀色にくせのない渋み。フルーツティーでもよくベースにされる茶葉…」
「俺も同じ意見だ」