第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
ブヒヒヒン!
アルテミスが早速気に入ったといった様子で鼻を鳴らしている。
「いい感じね、アルテミス」
ブブブブ。
すらっと伸びた前脚で敷き詰められた藁の感触を確かめるように踏みしめているアルテミスは、すこぶるご機嫌そうだ。
リヴァイの手で馬房に放たれたオリオンも、一晩を過ごすことになる部屋の快適さに満足した様子で立っている。
「いい馬屋だな」
「そうですね。オリオンもアルテミスも嬉しそうだわ」
「お気に召したようで何よりです。ではお部屋へご案内しましょう」
馬屋を出ていく際に振り向けば、隣り合う馬房に立つ二頭の馬は、早速顔を寄せて親愛の情を確かめ合っていた。
……もう、仲良しなんだから。
マヤが微笑ましく思っていると、老人も馬たちの様子に気づいたようで。
「仲睦まじいですなぁ」
「あぁ」「ええ」
同時に反応したリヴァイとマヤを見て、老人は笑った。
「人もまた然りですなぁ」
………。
頬を少し赤らめて視線を交わした二人は、少し背中の丸い老人のあとをついていく。
馬屋から再び宿の正面玄関に立ったマヤは、こう思っていた。
……ところでここは、なんていうホテルなのかしら。いやホテルって感じではないけれど…。
宿はマヤが見たことのないような、不思議な家屋だった。
……木でできているけれど、ログハウスとも雰囲気が違うわ。
「さぁさ、どうぞお入りください」
老人にいざなわれて、その不思議な木造の建物に入る。扉は縦の格子の入った引き戸だ。
すぐに奥から老婆が出てきて、老人と二人してきちんとならんで頭を下げた。
「“椿の湯” へようこそおいでくださいましたなぁ。女将のタキゾノでございます。リヴァイ兵士長、シムズ様から伺っております。ほんに遠いところをお越しいただきましたなぁ」
「申し遅れましたなぁ、わしはカズオです。タキゾノと二人でやってる小さな宿なもので至らぬこともあるかもしれんが、ご勘弁くださいなぁ」
二人の丁寧な挨拶に、リヴァイはよろしく頼むと頭を下げ、マヤは自分も名乗らないといけないと慌てた。
「マヤです。よろしくお願いします」
「まぁまぁマヤ様…!」
宿の二人以上に深々と頭を下げたマヤに、タキゾノが慌てた。