第15章 壁外調査までのいろいろ
「ただいま戻りました」
その声にミケが顔を上げると、大切そうに小さな巾着袋を抱えてマヤが入ってきた。
「お茶を淹れてきますね」
ソファの前のテーブルに巾着袋をそっと置く。
「あぁ、頼む」
給湯室にマヤが行っている間、何とはなしに巾着袋に目をやりながらミケは顔がにやけるのを止められずにいた。
……お菓子のおじさん… か。
しばらくして紅茶の良い香りとともに戻ってきたマヤが嬉しそうに巾着袋を手に取る。
「団長にいただいたんです。とっても美味しいの、一緒に食べましょう?」
小皿に星型のクッキーをならべると、芳醇なバターの香りが執務室に広がった。
目を閉じて紅茶と焼き菓子のもたらす至高の時間を楽しんでいるマヤに、ミケは切り出した。
「結局、リヴァイには訊けたのか?」
「あっ…、それは…」
マヤは急な問いに慌ててマグカップをテーブルに置く。
「あのとき… 思い切って訊いてはみたんですが…、答えてもらってないんです」
「ハンジの横槍が入ってそれっきりってことか」
「はい…」
マヤはしばらくうつむいていたが、こう言い添えた。
「全く反応してもらえなかったので、もしかしたら聞こえなかったのかもしれません」
内心それはないと思いながらもミケは、そうかもしれないなと相槌を打った。
しばし気まずい空気が流れた。
マヤは、ミケ分隊長があの晩のそのあとの出来事…、リヴァイ兵長の顔を見て泣いたことについて話題にされたらどうしようと思っていた。
ミケはミケで顔を赤くしてうつむいているマヤを、これ以上悲しませたくない、困らせたくないと考えていた。
沈黙を破ったのは、ミケのひとこと。
「この菓子、さすが王都のものだな。いい香りだ」
顔を上げたマヤはミケの優しさを嬉しく思いながら微笑んだ。
「ええ、本当にそうですね」