第15章 壁外調査までのいろいろ
「ハンジから聞いたが、巨人の捕獲班への編入を熱望しているそうだが…」
「あぁぁ…。はい、まぁ… そうです…」
歯切れが悪いなとエルヴィンは思ったが、話を進める。
「今度の壁外調査は前回から日が浅い」
「……? あ、そうですね… そう言われれば…」
「名は明かせないがある貴族から多額の寄付があった。壁外調査をより多くこなすことが条件なんだ」
真剣な顔でマヤはうなずく。
「常日頃からハンジは巨人の生け捕りこそ鍵になると熱弁をふるっている。私も異存はないのだが、資金不足でなかなか捕獲班を編成できる余裕がない」
そこまで話すと、エルヴィンは机の上で組んでいる指にぐっと力をこめた。
「だが今回は潤沢な資金がある。その上、捕獲班へ熱意を見せる兵士もいる…」
含みを持たせ一旦言葉を切る。
「わ、私ですね…」
「したがってハンジ分隊長を班長に据えた巨人捕獲班を結成し、マヤ、君を班員に任命する」
「……はっ、了解しました」
背すじを伸ばして敬礼したマヤに、エルヴィンはふっと笑いかけた。
「いいんだね?」
「……いいも何も…」
「いや実のところ、ハンジが何か君の弱みでも握って無理やりに仲間に引き入れたのではないかと睨んでいるのだが」
うろたえたマヤの琥珀色の瞳が揺らぐ。
「そ、そんなことはないです…」
……ふっ、当たらずといえども遠からずか…。ハンジのやつめ。
エルヴィンは内心そう思いながら、表情は引きしめた。
「マヤ、遊びではないんだ。生半可な覚悟は許されない」
厳しいその言葉に、マヤの顔も引きしまる。
「はい、もちろんです。ハンジ分隊長のもと、全身全霊で取り組みます」
琥珀の奥に宿る覚悟の色を認めたエルヴィンの碧い瞳は、穏やかに瞬いた。
「では存分に励みたまえ。私からは以上だ」
「はい、失礼します」
頭を下げくるっときびすを返し去るマヤは、扉を開ける直前に振り返った。
「エルヴィン団長、これ… ありがとうございました」
巾着袋を掲げにっこり笑うマヤに、エルヴィンは一瞬目を奪われた。
「あぁ…」
“失礼します” の声とともにぱたんと閉まった扉を、エルヴィンはいつまでも見ていた。