第3章 調査兵団
「……でも調査兵団なんかに入ったら、自由でいられる前に死んじゃうかもしれないんだよ」
調査兵団のことを “変人の巣窟” “まともな神経の人間がいくところではない” と決めつけ、憲兵団に入ることだけを目標にしていたリーゼに、マヤは何も言わずにただ微笑んだ。
……人の価値観は、それぞれだから…。
リーゼとの見解の違いを指摘することはせず、
……リーゼ、それでも私は調査兵団にいくよ…。
そう告げようとしたとき、能天気な声が聞こえてきた。
「マヤ! リーゼ!」
マリウスが、白い歯を見せながら駆け寄ってくる。
「なんだよ、二人してシケた面してよ!」
「うるさいわね。あっ そうだマリウス、マヤが調査兵団に入るっていうの、あんたからも止めてよ」
「なんで?」
「なんでってバカ! 死んじゃうでしょ!」
「死なねぇよ、オレも入団してこいつを守るから」
リーゼはその大きな青い目を見開いた。
「はぁ? あんた首席でしょ?」
「……それが何か?」
「優秀な人材が憲兵団に入らなくてどうすんのよ」
マリウスは眉を高々と上げた。
「興味ないね。オレはマヤと一緒にいられたらそれでいい。……だよな?」
マヤに同意を求めたが、冷ややかに返されてしまう。
「マリウス、別に私に合わせることはないのよ? 憲兵団にいけば?」
「おいおい、つれないこと言うなよ~」
リーゼが、パンパンと手を叩いた。
「はいはい~、夫婦喧嘩しないで!」
夫婦喧嘩の言葉にマリウスはニヤつき、マヤはそんなんじゃないってば!と声を荒らげた。
「リーゼ…、心配してくれるのは嬉しいけど私は調査兵団にいく。もう決めてるから」
マヤはリーゼの青い湖のような瞳を、まっすぐ見上げる。
「うん…、もう止めないよ」
リーゼはマヤの深い琥珀色の瞳の奥に、決して揺るがない覚悟を知る。
「マヤ、離れていても友だちだよ」
「もちろん!」
15歳の少女二人は互いの手を取り合って、笑みを交わした。