第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
リヴァイの眉間の皺がとことん深くなっていったが、ふと浮かんできたのはマヤの笑顔。聞こえてくるのは愛らしいマヤの声。
“兵長のお誕生日を一緒に過ごせるなんて、夢のようです!”
……あぁ、俺は自身の生まれた日なんかどうでもいいが、マヤがあんなにも喜んでくれるのなら。マヤが祝ってくれるのなら、俺も喜んで祝ってもらおうじゃねぇか…。
そう思えるようになると、ミケの思惑がどうであれ乗ってやるのも悪くないと、リヴァイは溜飲を下げた。
じろりとミケを見上げる。
196センチメートルもある巨体の顔をまともに見ようとすれば、小柄なリヴァイは必然的に “かなり” 見上げる事態になってしまう。
……チッ、無駄にクソでかい図体しやがって…。
忌々しく思いながらも今はマヤのためにも素直に感謝を伝えねばと、リヴァイは覚悟を決めた。
「……世話になったな」
ミケから視線を外してぼそっとつぶやいて、そのまま背後の自室の扉から部屋へ消えた。
ぱたん。
小さな扉の閉まる音を残して消えたリヴァイ。
ひとり廊下に残されたミケは、普段は砂色の長い前髪に隠れてよく見えない小さな目を見開いていた。
……リヴァイが礼を言った…。
確かに “礼の一つでも言ったらどうだ” とは言ったが、本当に言うとは。
やっぱり俺の直感は正しかった。
出会った最初のときから、リヴァイは素直だと想いつづけてきた。
恐らくマヤが絡んでいるから、より一層素直になっているに違いない。
そうとはいえ人類最強で不愛想で年中不機嫌な様相のあのリヴァイが、こうも簡単に礼を言うとは…。彼を深く知らない者には想像すらできないに違いない。
しかも礼を言う直前に顔を見上げてきたかと思ったら、すっと視線を外してからの小声でささやくような “世話になったな” の言葉。
愛おしくて、たまらなくなってきたミケは。
……スンスンスンスン…。
リヴァイの残り香を、そのたぐい稀な嗅覚を誇る鼻こうに思いきり吸いこんで。
……あぁ、リヴァイ。お前の香りも “極上” だな…。
かつてマヤの香りを “極上” だと堪能したミケは、リヴァイの香りも心ゆくまで味わってからニヤリと笑うと、自分の部屋に帰っていった。