第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「ふぅ…」
その夜遅く、入浴を終え私室でひと息をついたマヤの耳に、せわしないノックの音が聞こえてきた。
……誰?
そう思う間もなく、聞き慣れた声がする。
「マヤ~! 帰ってるんでしょ、開けて」
急いで迎え入れれば転がりこんでくるのは、親友のペトラ。
定位置であるクレアのベッドにひょいと腰かけて、もう何かを話そうと意気込んでいる。
「どうしたの?」
「聞いてほしいことがあるんだ。エルドさんがね…、なんか変なんだ」
「変…?」
「うん。全周遠征訓練から帰ってきてからさ、やたら私とオルオをペアリングするのよ」
「ペアリング?」
マヤは思わずペトラの指先を見る。指輪をしていない、まっさらな白い指。
「違う違う、ペアの指輪じゃなくって、なんかひっつけてくるの!」
「……そうなんだ。でも元々訓練のときはオルオとペアだよね」
「ペアを組むことが多いだけで、決まってる訳じゃないよ。マヤだってそうでしょ? 別に班内でこの人と絶対組んで練習って決まってないよね」
そう言われたらそうだなと、マヤはうなずいた。
「じゃあ訓練で必ず組まされてるの?」
「それもあるけど、休憩でも食堂でも掃除でもなんでもかんでも、オルオと二人でやれって押しつけてくるのよ」
「気のせいじゃなくて?」
「ないわよ! だって問い詰めたもの」
「えっ?」
聞けば、オルオと何もかもにおいてペアリングさせられているという疑念が確信に変わった今日の夕食後に、談話室に呼び出して詰問したらしい。
「言ってやったの。“エルドさん、おかしいですよね? 全周遠征訓練から帰ってきてから私とオルオをくっつけたがってますよね? 訓練だけじゃなくって掃除もごはんのときも、なんで全部オルオと組まないと駄目なんですか。どういうつもり?” って」
直球ストレートに問いただしたペトラの言葉にドキドキしながらも、マヤは先をうながした。
「それで?」
「そうしたら言うのよ、“ペトラがそうしたがってるからだ” って」
「そうなの?」
「そんな訳ないじゃない! だから “何言ってるんですか、意味がわからない” って怒ったんだけどさ…」
やり取りを再現することによって当時の感情そのままに怒っていたペトラの語気が弱くなる。