第15章 壁外調査までのいろいろ
午前の訓練、昼食、そして午後の訓練の第一部をつつがなく終えた今、マヤは一日ぶりにミケ分隊長の執務室で絶賛執務中だ。
体調不良で休んでしまった昨日に処理すべき書類が、心なしか小高い山のようになって自身を見つめているような気分になり、目まぐるしいスピードで片づけている。
そんな様子のマヤをミケは気遣った。
「病み上がりなんだ。ゆっくりでいいんだぞ」
その声に顔を上げる。
「ありがとうございます。……でも昨日休ませていただいて、今日はすごく体調いいんで頑張ります!」
「そうか、じゃあ無理しない程度にやってくれ」
「はい」
その後しばらく執務室には書類を処理する音だけが響いていたが、30分ほどしてからミケが声をかけた。
「マヤ、これをエルヴィンに持っていってくれ」
「わかりました」
数枚の書類を受け取り、出ていこうとするマヤの背中にかけられた言葉は。
「帰ってきたら休憩しようか」
「はい!」
嬉しそうに扉を閉め、まっすぐ団長室へ。
「失礼します」
ノックをしながら入室すれば、執務をしていたエルヴィンが顔を上げた。
「ミケ分隊長から預かってきました」
差し出された書類を受け取ったエルヴィンは、さっと目を通すと机に揃えて置きながら、
「ありがとう」
と、穏やかな碧い目でマヤをねぎらった。そして再び執務に戻るべく伏せられた端正な顔に思い切って声をかける。
「……あの! エルヴィン団長…!」
もう一度、澄みきった湖の碧のような瞳がマヤをとらえる。
「飲み会では失礼しました! お見苦しいところをお見せして…」
頭を下げるマヤに張りのある声が降ってきた。
「いや、見苦しいどころか見ていて楽しかったから謝ることはない」
「……はい」
ゆっくりと頭を上げれば執務机の向こうには、からかうように碧い瞳が揺れていた。