第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「だよね、ひどいよね?」
マヤが同意してくれたことによって、ペトラは勢いづいて大きな声を出す。
「うん。オルオは討伐の腕も確かだし、勇敢だし、立派な調査兵よ。それに一緒にいて楽しいし、大切な友達だわ。それをそんな風に馬鹿にしたような言い方をされたら…」
「だよね! オルオはそんじょそこらの駐屯兵より断然強いし、あれで案外いいヤツなんだから。それを皺だらけとかなんとか言って馬鹿にしてさ! マヤもそう思うでしょ!?」
「オルオはちょっと年齢より上に見えるけど、それはオルオの人柄とは関係ないもの」
「そう! それをシワシワジジィ、シワシワジジィってさ!」
「ふふ、そうだね」
オルオを悪く言われてぷりぷりと怒っているペトラが、マヤにはとても可愛く思えた。
「オルオをシワシワって言っていいのは、ペトラだけだよね」
「そう! そのとおりよ。オルオを悪く言っていいのは私だけなんだから!」
そう叫んだペトラの声は家中に響いた。
トントントントンと階段を上ってくる音がして、扉の向こうから声がする。
「明日、朝早いんでしょう? 寝なさいよ?」
「はぁい!」
またトントントントンと音が遠ざかる。
「……怒られちゃったね」
「でもまだそんな遅くもないのに」
ペトラは頬をふくらますが、じきに午前0時をまわる。
「心配してくれてるのよ。それにおじいさんは寝ているだろうから、静かにしなくちゃ。夜は思ったよりも音が響くから」
「確かにね。じゃあ寝ようか」
「うん、おやすみペトラ…」
「おやすみ…」
挨拶をかわして目を閉じれば、速やかに眠気はやってくる。ペトラにとってそれはいつものことだから。
完全に眠ってしまう前にマヤに言いたいことがあった。
「ひとつだけいい?」
「いいよ。どうしたの?」
「自分でも不思議なんだ。オルオがシワシワなのは、よく考えたら本当のことなんだし、なんであんなに怒ったんだろうって。あのとき、あの子らに怒鳴ったあと鏡に映った自分の顔が別人みたいに見えたんだ…」
瞳を閉じたペトラのまぶたの裏には、怒りで震えたあのときの自身の顔がくっきりと浮かんでいた。