第30章 映る
そして女子グループの話題は “調査兵は鍛えていて細マッチョでイケてる、駐屯兵は中年になったら太る” という結論に至った。いよいよ出ていくのかとペトラが思った矢先、彼女たちはある一人の調査兵を槍玉にあげ始めた。
「調査兵ってマジでイケてるよね…、一人を除いて」
「あぁ、そうだね。あれ、なんでリヴァイ班なの?」
「そりゃ強いんでしょ。なんか自慢してたし…」
と、その女子は口調を真似しながら。
「“いくら俺がリヴァイ班で強いからって、俺に惚れるなよ”」
「それそれ! なんかそのあと調子に乗って椅子から滑り落ちてたし」
……オルオだ!
ペトラの心拍数が上がる。
「リヴァイ班なのかもしれないけど、やたらかっこつけるし、いきがって舌まで噛むし、なんなのあの人」
「大体うちらと同い年って絶対嘘だよね」
「あんなおっさんみたいな顔が17歳な訳ないじゃん。もてたくて嘘言ってるんじゃない?」
「皺だらけだもんね。シワシワジジィだよ」
「あははは! それいいね、シワシワジジィ!」
……ちょっと、なんなのよ…!
聞いていたペトラの心拍数はガンガン上がり、自分でもよくわからない強い想いが体内でふくれ上がっていく。
「シワシワのくせに、かっこつけてさ~」
「そうそう、うちらはエルドさんやグンタさんの武勇伝が聞きたいのにさぁ、シワシワが訊いてもないのに自分の手柄話ばっかしてくるから」
「ね~、お呼びでないっつーの」
最初にオルオの口調をモノマネしたミミという名の娘が、また真似る。
「“……俺に惚れるなよ”」
「やだ~!」「やめてよ」「そっくり!」「受けるぅ!」
女子たちは腹をかかえて笑い、最後に口をそろえた。
「「「誰が惚れるか!」」」
同じセリフを言ったことで、彼女たちは顔を見合わせ大笑いした。
「「「あははは~!」」」
……確かにオルオはシワシワで、かっこつけの馬鹿だよ。でも、でも…!
ペトラはぶるぶると体が震えてくるのを感じた。
ペトラが今にも怒りに身を任せて叫びそうになっているあいだにも、オルオの悪口はつづいている。
「シワシワジジィのくせにリヴァイ班だなんて、ふざけんな!」
「冗談は顔だけにして~だね!」
「そうそう!」
……そうそうじゃないわよ!!!
ついにペトラは怒り心頭に発して、バーーーンと扉を蹴破った。