第30章 映る
轟音とともに個室から突如現れたペトラに驚いて、女子グループの全員が腰を抜かしそうになっている。
「きゃ~!」「えっ!」「誰?」
ペトラが怒りのあまりに鬼の形相になっていることも、すぐにペトラだとわからなかった要因だ。
「あなたどこの所属?」「勝手に入っていいと思ってるの!?」
口々に叫ばれる、個室にひそんでいた不審者に対する彼女たちの言葉は、ペトラの耳には一切届いていない。
そして激情のまま、啖呵を切った。
「あんたたちにオルオの一体何がわかるのよ!」
「……オルオ?」「あっ…!」
オルオの名が出たことで、彼女たちは肩を震わせて立っている相手が調査兵団リヴァイ班の紅一点、ペトラだと気づいた。
そして顔を見合わせていたが、リーダー格らしいミミが口をひらいた。
「えっと…、その…別に、悪口のつもりではなくって…」
すでにミミ以外の女子たちは後ずさりをして、順に扉から廊下へ脱出している。
その素早さといったら…! 鏡の前に残るはミミだけ。
気配で仲間が全員出ていったと察知して、ミミも脱兎のごとく逃げ出した。最後にひとこと残して。
「……ちょっと言いすぎちゃったかも!」
ばたん!と大きな音を出して便所の扉は閉まり、ペトラはひとり残された。
……何よ、言いたいことだけ言って逃げ出して!
ペトラはずんずんと鏡の前まで大股で歩いてくると、蛇口をひねって水を出す。
ジャージャーと勢いよく出る水でばしゃばしゃと手を洗っていると、不満が声になってどんどん出てきた。
「ほんと一体なんなの! オルオのこと悪く言うんだったら、逃げないで最後まで言えってんの! あ~、ムカつく!」
キュッと音を立てて蛇口を閉める。
上着のポケットからハンカチを出して手を拭きながら、顔を上げると。
「……誰…、これ…」
鏡に映っていたのは、初めて見る自分の顔。
いつもは髪の色と同じである薄い茶色の大きな瞳が、まるで灼熱の炎で燃えつくすかのようにめらめらと揺れていた。