第30章 映る
「いえ、大丈夫です」
「そう、なら良かった! 最北の地ユトピアで日がな一日酒や恋に溺れて楽しく生きてるのも、調査兵団のおかげとあたしは思ってる。ありがとう」
熱い言葉とともにプリシラはマヤの手を力強く握って、輝く笑顔を見せた。
「近くで見ると、ほんとに綺麗な肌だね。やっぱ若いと弾力が違うし…」
握った手に、ぐいぐいと力をこめてくる。
「えっ、あの…」
握られた手は痛いし、プリシラが好意的なのかどうかよくわからずマヤは困っている。
見かねたベンが、そっとプリシラの手を引き離した。
「おい、もういいだろう? 若いかどうかなんか関係ないさ。俺はこの手が好きなんだから」
ベンに優しく手に口づけてもらって頬を染めたプリシラに、強めに言う。
「プリシラ、先に行っててくれないか。俺はエルドに話があるから」
「エルド?」
「あぁ、あのリヴァイ班の」
指さす方向には数多くの駐屯兵に囲まれているエルドとグンタとオルオが。
「わかった、じゃあ先に行ってる。早く来てよね」
どうやらベンが男と接触することには興味がないらしいプリシラは、あっさりベンを解放すると食堂を出ていった。
完全にプリシラの姿が見えなくなってから、ベンが猛烈な勢いで謝罪してきた。
「ごめん! プリシラが色々と…」
「別にベンが謝るようなことは何もないわ。ただ…」
「ただ…?」
「ただ少し、目のやり場に困っただけ。すごく仲がいいのね」
マヤのそばで、ハンスとジムニーが激しく同意と大きくうなずいている。
「あはは、それは悪かった。プリシラには、ああするのが一番効果的だから」
「ふふ、いつまでも仲良くね」
「サンキュ! じゃあまた、いつでも来てくれ。今度は訓練ではなく休暇で」
「そうね、いつかまた」
「そのときはラブラブの彼氏を紹介してくれよ!」
ベンはそんなセリフを残して、急いでエルドのところに行ってしまった。どうやらエルドをはじめ調査兵全員に声をかけてから出ていくつもりらしい。
「マヤ、彼氏はどんなやつなんだい?」
ハンスが訊く。
「そうね…」
ほんの少し考えてから、マヤは簡潔に答えた。
「ベンとは正反対だわ」
「……だろうな」