第30章 映る
マヤとハンスのやり取りの間もずっと、ベンとプリシラは人目をはばかることなくいちゃついている。
「あたし黙って店を抜け出してきたから、戻らなくちゃ。ベンも一緒に来てよ、父さんも喜ぶ」
「でも俺、一応幹事だからなぁ」
プリシラは周囲をぐるりと見渡した。
「もう完全にグループに分かれちゃってるし、おひらきでいいじゃない」
確かに、律儀に最初のテーブルの椅子に腰かけているのはマヤだけで、あとは離れたところにそれぞれ散らばって歓談している。
「それもそうか」
ベンは状況を見て納得すると、パンパンと手を叩いて皆を注目させた。
「え~、宴もたけなわってところだが、そろそろおひらきに…」
「ベンがプリシラと帰りたいだけだろ!」
ヤジが飛んで頭をかく。
「あはは、ばれたか…。そう! 俺はプリシラの店へ行く。だからここからは好き勝手にやって、適当に解散しといてくれ」
親睦会の発起人としては随分といい加減な締め方ではあるが、最後の最後にピシッと決めた。
「調査兵のみんな、今日はありがとう。これからもよろしく頼むな!」
おう、こちらこそ! わ~! よっ、名幹事! プリシラと仲良くな! などと様々な声が飛んで拍手喝采のなか、ベンはプリシラと出ていった。
その背中を見送っているマヤに、ハンスとジムニーが声をかける。
「びっくりしただろう? プリシラとベンはいっつもあんな感じだから」
「そうそう、俺らは慣れっこだけど」
「ううん、大丈夫。あっ、戻ってきた」
ハンスとジムニーが振り返れば、食堂を一度出ていったベンとプリシラがまっすぐこちらに歩いてくる。
「おい、なんだよベン。忘れ物か?」
「いや、マヤにちょっと…」
ばつが悪そうにしているベンを押しのけて、プリシラがぐいと一歩前に出た。
「さっきは失礼な態度を取って悪かったわ。ちょっと周りが見えてなくて…」
「プリシラはいい意味で一途だから、頭に血がのぼると後先を考えずに突っ走る猪突猛進型なんだ」
「ちょっとベン、それ褒めてるの?」
「もちろんそうさ」
また周囲のことなどおかまいなしに、二人の世界が始まってしまう。
だが、さすがに年配者のプリシラがハッと気づいて頭を下げた。
「やだ、またあたしったら…。本当にごめんなさいね」