第30章 映る
調査兵団に入団した同期が次々と死んでしまっていた事実が、饒舌なベンを黙らせる。
それを目の当たりに見たハンスはショックを受けた。
……あのベンが黙っちまった。そりゃそうか、辛いことも楽しいことも一緒に共有した訓練兵時代の仲間が巨人に食われたとなれば。あれ…? あぁそうか。きっとオレのダチも…。
西方訓練兵団出身の調査兵だけが、壁外調査で死ぬ訳ではない。
突然そのことに気づいたハンスも、悲壮な顔で宙を見つめている。
マヤ、ベン、ジムニー、ハンスがそれぞれの亡き友への想いを抱えてうつむいている周囲は、わいわいがやがやと親睦会が絶賛進行中だ。
エルドもグンタもオルオもリヴァイ班の一員として、多くの駐屯兵に囲まれていた。リヴァイ兵長や巨人討伐の話で大いに場を盛り上げていて、何度もわぁっと歓声が上がっている。
ペトラは男子に囲まれて、楽しそうに笑っている。タゾロもギータもそれぞれに、多くの駐屯兵を相手に話しこんでいる。
それらの音を遠くに聞くような感覚におちいりながら、依然マヤたち四人は黙ったままだ。
いつ誰が、この沈黙を破るのか。
それは一番このなかでは普段口数の少ないジムニーだった。
「……マヤ。ザックは…」
訓練兵時代に一番仲の良かったザックのことを話そうとするジムニー。
「絵を描いていたんだ、マヤの絵を」
ザックのマヤへの想いを知っていたジムニーは、どうしても伝えたい。もうこの世にはいないザックのために。
だがマヤに想いを伝えることが、ザックの気持ちに添うことかどうかはわからない。
……だから君の絵を、君の絵を何枚も何枚も描いていたことだけは知っておいてほしいんだ、マヤ…。
そんなジムニーの想いをマヤはしっかりと受け止めて。
「……知っているわ。とても素敵な絵だった」