第30章 映る
マヤが首をかしげていると、ベンとハンスがスープカップを手に戻ってきた。
「お待たせ! さぁじっくり語ろうぜ!」
ご機嫌な調子で腰をかけたベンは、マヤの顔を覗きこむ。
「しかし長かったよな、成就するまで。同情するぜ、全く!」
「……成就? 同情?」
なんのことやら。マヤの首は、ますます傾く。
「……ったく、とぼけてんのかとろいんだか。マリウスも苦労するよな」
「あっ…」
「あっ、じゃないから。マリウスが訓練兵時代から、いや幼少時からマヤにぞっこんなのは、俺たちみんな知ってることだから。なぁジムニー?」
「うん。だから俺はマヤとつきあうとか、そういう考えは最初からないんだ」
「それな! マヤをいいな~って思っても全員マリウスに睨まれて、好きになることすらかなわなかったもんな…」
「全員じゃないよ、ベン。ショーンは最後まで戦った」
「あぁ、そうだったな! マリウスとショーンのマヤを賭けた首席争い…。ショーンはすごかったよな、あのマリウスと張り合うなんて」
「でも結局は敗れて憲兵団に…」
「そうだったな…」
ベンとジムニーは当時を思い出して、しんみりとしている。
「あの、ベン…」
マヤは、マリウスは殉職したと言わなければと声をかけるが、思い出にひたっているベンの耳には届かない。
「でもこうやって長年の想いを成就させたんだから、憲兵団に追いやられたショーンも浮かばれるってもんだ」
「浮かばれるって、ショーンは生きてるよ」
「あはは」
ベンとジムニーの会話を止めなければ、これ以上は…!
マヤは、いたたまれない気持ちで大きな声を出した。
「ベン! ジムニー! 聞いて…」
思いがけないマヤの声に、二人はびくっと肩を上げた。