第30章 映る
……ベンが知ってる?
ベンの “俺はマヤの相手を知ってる” に少なからず動揺する。
……どうして? 言ってないのに。あっ、もしかして兵長が…? いやでも、そんなことを初対面のベンにわざわざ言う訳ないよね…?
頭の中でぐるぐると考えていて、ベンに声をかけられるまで気づかずにいた。
「マヤ、おいマヤ!」
「あっ、何?」
「何ってマヤに彼氏がいるってわかったら、俺らだけになっちまった」
見ればマヤの周りに残っているのは、ベンとジムニーとハンスの三人だけだ。
「俺は別にマヤとつきあいたいから来たんじゃないし…。っていうか、つきあえるなんか最初から思ってないんだ」
と、ジムニーが言えば、
「オレはいつも適当なベンが熱心に人集めをして、アレッポラのおっさんから肉をせしめて、そこまでベンを動かす同期のマヤってのがどんな子か知りたかっただけだからさ。安心していいよ、取って食いやしない」
と、ハンスは白い歯を見せた。
「俺たち三人だけど、仲良く親睦を深めようぜ?」
ベンの提案にマヤも異存はない。
恋人がいて訓練兵時代の同期で気心が知れているベン。同じく同期のジムニー。ベンと同じ班の下心のなさそうなハンス。
この三人とならば “お見合いパーティー” ではない親睦を深められそうだ。
「わかったわ。ちょっと待ってね、急いで食べるから…」
自分だけがまだ食事を終えていないことを申し訳なさそうに、マヤはフォークを手に取った。
「あぁ、食いながらで全然OKだから。無理して急いでのどでも詰まらせたら大変だ、なぁ?」
「うん。ここは調査兵団の食堂だと思って、普通に食いながらしゃべろうぜ! あぁ、そうだ。お代わり持ってこようぜ」
ベンもハンスも優しくそう言って、スープのお代わりを取りにいった。
そのあいだに口数の少ないジムニーが顔を赤らめながら、遠慮がちに口をひらいた。
「やっぱりつきあったんだね…」
「……やっぱり…?」
「そうなるとは思っていたけどさ…。良かった、おめでとう」
「ありがとう…?」
なんだか話が噛み合わない。
……ジムニーは私と兵長がつきあうことを前から知っていたような口ぶりだけど…。