第30章 映る
………!
急にくちびるを奪われて、胸が跳ねる。
そしていつものように深く口の中にリヴァイを感じるのかと身構えるが、やわらかなリヴァイのくちびるがちゅっちゅっと優しくついばむようにキスしてくるだけだった。
最初はくちびるだったが、そのうち頬にも鼻にもあごにもおでこにも。
ちゅっちゅっと顔中にキスの雨が降る。
「ふふ、くすぐったい…!」
秋の夜の音に、二人の絡み合う音も重なって。
愛おしむ口づけの嵐にくすくすと笑っていたマヤだったが、ふと。
「今日はもっと… しないの…?」
気づけばそんな言葉が飛び出していて。
物足りなく思った訳ではないが、リヴァイの口づけがあまりにも心地よくて、もっとしてほしい、もっといつもみたいに深い口づけもしてほしい、昨日の夜みたいに口づけだけではなくその先も…。
そんな想いが、リヴァイのくちびるから伝わってくる熱とともに高まって。
「………」
マヤの言葉を聞いた途端に、リヴァイの口づけが止まった。
「マヤ…、煽るな…!」
本当に困ったように眉間に皺を寄せて、リヴァイはマヤを強く抱きしめた。
……俺だってもっと激しく口づけたい。その先も…。そんなの決まってるじゃねぇか。
でも今は無理だろうが…!
「……あいつらがすぐそこで寝ている。今日はこれで我慢しろ」
そうささやくと、もう一度くちびるを合わせた。
リヴァイの熱いキスを受けながら、マヤはますますぼうっとしていく頭で考える。
……そうだわ。みんながあっちで寝ているもの…。こんなことをしているのがバレたら大変…。
パチパチと焚き火の音がして、遠くで虫の鳴き声が響いている。
耳元ではリヴァイと自分のくちびるが奏でる水音が聴こえる。
そんな状況で身も心もとろけそうになっているマヤは、かさりと草むらが動く気配を感じた。
ハッと身をかたくして、リヴァイを拒む。
リヴァイも同じく何かを感じたらしく、気配のした暗闇を睨む。
………。
だが、しんとしてなんの物音もしない。聞こえてくるのは遠くの虫の声のみ。
リヴァイとマヤは顔を見合わせて座り直した。
誰かがいた気がする。
気のせいかもしれないが、もう抱き合うことは控えて、肩を寄せ合い語ろう。
それだけで充分に幸せなのだから。