第30章 映る
草陰のかすかな物音がきっかけで抱き合うのをやめたリヴァイとマヤは、二人で暮らしたとしたら… と夢の話を始めた。
「……家は小さくてもいいんです。でも台所は広めがいいなぁ。紅茶をいつでも飲みたいから、新鮮な水が汲めるように大きな井戸も欲しいです。ティーカップも取り揃えたいから大きな食器棚も、茶葉をたくさん収納できる戸棚も…」
「庭に井戸が要るなら、王都は駄目だな」
「そうですね。王都は立派なところですけど、私は田舎の方が合ってるかな。王都はときどき遊びに行けたら、それでいいかもです」
「一度は王都に嫁入りする覚悟でいたがな…」
リヴァイの声が少々嫉妬じみている。
「そうでしたね…。なんだかすごく昔のことのように思えます」
「今でもあいつはマヤをあきらめちゃいねぇだろうし、王都には近づくな」
「……レイさんがですか?」
「あぁ」
「まさか! 王都には綺麗で素敵な方がたくさんいるもの。レイさんにふさわしい人がいくらでもいると思うわ」
「……そうだといいんだがな」
リヴァイは無邪気なマヤの横顔を眺めて思う。
……本当にこいつは全然わかっちゃいねぇな。
一度マヤに囚われたら、そう簡単に他の女に目が行くかよ。
パチパチと小さな音で焚き火が爆ぜて、マヤは思いつくままに二人の生活の夢話をしている。
「じゃあどこか田舎の小さな家。庭には井戸があるの。兵長と二人きりもいいけど、近所にペトラが住んでるのもいいかな」
……俺は二人きりの方がいいが、マヤが喜ぶなら仕方ねぇか。
「オルオもハンジさんもモブリットさんも、ナナバさんもニファさんも…」
次々と調査兵団の仲間の名を挙げていくマヤにストップをかける。
「おいおい、それじゃ今と変わらねぇだろうが」
「ふふ、そうですね。結局私、今が幸せなんだろうな…。兵長と二人でいるのも幸せだけど、兵団のみんなといるのも幸せなんです。ペトラとおしゃべりして、ペトラとオルオの夫婦漫才を見て…、ペトラやエルドさんたちの… あっ」
マヤは何かを思い出したようだ。