第30章 映る
マヤは感銘を受けた。
もちろん巨人を討伐してきたし、これからもしていくし、その延長に巨人が全滅する世界があると信じて任務に当たっているのではあるが。
つい数時間前だってエルドをはじめ皆で、巨人をやっつけて壁をぶっ壊して平和な世界をと息巻いたばかりだ。
だが、どうしてこうも違うのだろう。
自分たちがそう言うのと、リヴァイ兵長が “必ず巨人を絶滅させる” と口にするのとでは全然違う。それは迫力であったり、言葉の重みであったり、絶対にその言葉が真実の未来になっていくという確信であったり。
マヤがリヴァイの言葉に陶酔していると、自由になっていた手をリヴァイに絡めとられた。
驚いてリヴァイの方を見れば、今までに見たことのないような青灰色の瞳が焚き火の揺らめきを映していた。
「約束しよう。俺は必ず巨人を絶滅させる。そして壁も兵団もなくなったら…、そのときが来たら一緒に暮らさないか」
「……えっ?」
巨人を滅ぼす、壁をなくす、平和になって兵団もなくなる…。うんうんと大きくうなずいてリヴァイの力強い言葉に耳を傾けていたマヤは、最後の思いがけない提案に驚いた。
「一緒に暮らす…? 兵長と私が…?」
「そうだ。他に誰がいる」
まだよく意味がわかっていないマヤは、その大きな琥珀色の瞳をぱちぱちさせている。
「巨人がいなくなって壁も兵団もなくなったら、兵舎もなくなって…、あっそうか…、みんなばらばらになるんだ…」
マヤはゆっくりと頭の中を整理している。
「私はクロルバに…、兵長は地下街に帰る…? そんなの嫌よ…」
マヤのつたない独り言に辛抱強くつきあって、リヴァイが言い添える。
「俺も嫌だ。マヤ、お前と離れちまうなんて我慢ならねぇ。だから一緒に暮らそう」
「どこで…?」
「二人で一緒にいられるならどこでもいい。クロルバでもトロストでも王都でも、サビみたいに誰もいねぇ森の奥の山小屋で二人っきりってのもいいかもな」
「ふふ、そうですね。兵長となら私もどこでもいいわ」
「……決まりだな。俺たちはずっと一緒だ」
リヴァイはマヤをぐっと抱き寄せて、誓うかのように口づけた。