第15章 壁外調査までのいろいろ
壁外調査で散る覚悟は本人も自覚しないまま、凄まじい熱量となって心身ともに支配していく。
……明日の壁外調査で死ぬかもしれない。
その恐怖はどんどん脳内で増殖する、これまでに目の前で巨人に食われて死んでいった仲間の最期の姿とともに。
……あんなに優秀だったあいつが、あっけなく死んだんだ。今度は自分が…。
人は死を意識したとき、自然と “悔いのないように” 行動するらしい。
一方通行の恋慕を抱えたある者は、そのやるせない想いを手紙にしたためる。またある者は、そのまま想い人へ気持ちをぶつけることも厭わない。
いつしか調査兵団では、壁外調査の前日の想い人への告白風景が当たり前のものになっていた。
「……そうか。ナナバなら性別関係なく惚れるってのも納得だな」
うなずくアーチボルドに、
「そうか? こいつ女には人気あるけど、男からは全然だぜ?」
けなすゲルガー。
「なんとでも言え。誰からもコクられないゲルガーよりマシだから」
涼しい顔で手酌するナナバ。
「ところでよ…、壁外調査が決まったらしいが早くねぇか?」
ゲルガーの疑問にアーチボルドが律儀に答える。
「前回の犠牲者が少なかったのと…、それにこれはラドクリフ分隊長が漏らしてたんだが、ある貴族がバックについたらしいぞ」
「貴族?」「バックにつく?」
同時に叫んだゲルガーとナナバをちらと見て、アーチボルドはうなずいた。
「あぁ。その貴族はよっぽど調査兵団がお気に召したらしい。どんどん壁外調査に行け、金は惜しまんと豪語してるんだとよ」
「……なんじゃそりゃ」
ゲルガーはグラスに注ぐのも面倒になったのか、ラッパ飲みし始めた。
そんなゲルガーに冷ややかなまなざしを送りながらナナバはつぶやいた。
「それでハンジさんが千載一遇のチャンスとばかり、巨人を生け捕りにするって目の色を変えていた訳か…」