第30章 映る
「いつ壁が破られて巨人に襲われてしまうかわからないような明日なのに、今こうやって静かな夜に響く秋の音を兵長と一緒に聴いている…。ただそれだけのことなのに、幸せな気持ちでいっぱいです。ずっと、ずっとつづけばいいのに…」
マヤの言葉を聞いたリヴァイの手のひらの温度が、少し上がった気がする。
「マヤ…」
リヴァイは焚き火の揺らめきに向けられていた切れ長の瞳を、隣のマヤに向けた。
「さっきエルドやタゾロたちと言っていたが、いつか巨人がいなくなって調査兵団が解散したら…、そのときは…」
「そのときは壁も壊してまわりましょうよ…!」
マヤは急に思いついた自身のアイディアに夢中になった。
「今は全周遠征訓練ですけど、全周崩壊作戦っていうのはどうですか? もう巨人がいないんだから、壁は必要ない。私たち調査兵団だけではなく、駐屯兵も憲兵も街や村の人たちもみんなで壁を壊すの。手にするのはなんでもいいわ、木槌でも金槌でもつるはしでも。人類全員で巨人にもう怯えなくてもいいんだって喜びを分かち合いたい。あぁ、想像するだけでわくわくします…!」
軽く興奮するあまりマヤは両手を胸の前で無意識に組んだので、リヴァイの手を離してしまっている。
「……でも、いつのことになるのかな…」
急に現実に戻されたのか、不安になっていくマヤ。
「本当にそんなこと…、巨人がいなくなって壁を壊すなんて…、そんな日がくるのかしら…」
「あぁ、くる」
気弱なマヤの声に対して、リヴァイの声は力強い。
「俺は決めている…」
「……決めている?」
「あぁ、俺は必ず巨人を絶滅させる」
「………!」