第30章 映る
夜は更け、見張りを残して皆が就寝。壁外調査と違って二人一組ではなく、単独でおこなう。
もっとも深い夜の時間の見張りはリヴァイ。
タゾロから引き継いで、明け方まで。
深い夜といっても無音ではない。
かろうじて小さく燃えている焚き火はパチパチ、時折丘のふもとを吹く風が草を揺らすサワサワ、その草の陰で鳴くのは秋の虫のジージーやリンリンリン。
「……結構にぎやかじゃねぇか」
リヴァイがチンチロ鳴いている虫の声に人知れず頬をゆるめていると、草むらがかさかさと動いて現れた人影は。
「兵長」
「マヤか…」
座れと直接言う代わりに、リヴァイはちらりと自身の隣を見る。
流れるように自然な動作で、マヤはそこに腰を下ろした。
「……眠れないのか?」
「……起きちゃいました。なんでだろ…? 兵長に逢いたかったからかも… です…」
自分の言っていることが恥ずかしくて、最後の方は消え入るような小さな声。
「……そうか」
最後までしっかり聞こえたリヴァイは、それ以上は何も言わずに左手を伸ばした。
………!
地面についていた手にそっと重ねられたリヴァイの体温に気づいて、マヤは頬を染めた。自身の右手に感じるリヴァイのぬくもりからは “俺も逢いたかった” という想いが、ひしひしと伝わってきたからだ。
そのまま二人は、互いの手が想いを重ねていくように熱くなるのを感じながら秋夜の音を聴いていた。
「……思ったより色んな音が聴こえる…」
「そうだな」
パチッと焚き火が小さく爆ぜる。
リヴァイと二人きりで揺らめいている小さな炎を見つめて秋の音に耳を澄ましていれば、この時間が永遠につづけばいいとさえ思ってしまう。
……壁の外には巨人がいて、人間はいつ殺されるかわからなくて、だから私たち調査兵団がいる…。そんな恐ろしい世界に生きているのに、今この瞬間私はそんなことはどうでもよくなるほど兵長のことしか考えられなくて、二人でいることが幸せで。
「兵長、私… 幸せです」
リヴァイへのあふれる想いが、秋の音となって夜の草原に流れていく。