第30章 映る
「俺は帰省するときは連絡船を使うから、壁内をこんなにも長く馬で走ったことはない」
「お前の家、王都に近い街だもんな」
グンタの声にうなずいて、エルドはつづける。
「壁外調査では走っても走っても、煙が上ってないだろう? それがこの全周遠征訓練は壁内だから、いくつも目にした。特にクロルバ区の近辺の森では頻繁にな」
クロルバ区と聞いて、マヤが相槌を打つ。
「そうですね、クロルバの周辺は狩猟民族の村がたくさん点在しているから」
エルドは同調してくれたマヤの方に感謝の視線を投げてから。
「いつ巨人が出現するかわからない壁外と違ってただ…、のどかに立ち昇る煙を横目に馬を走らせる。その煙のある暮らしを守りたいと… あらためて思ったんだ」
「そうだな…」
タゾロが深くうなずいた。
「調査兵団といえば壁外調査で未知の巨人を調査して討伐して…、そういう面ばかりに目がいくが、結局は人がなんにも怯えることなく安心して生活できるようにすることが本来の究極の任務だよな」
タゾロの力強い言葉に、グンタもオルオもペトラもギータも皆が次々と同意した。
「巨人をやっつけることが目的じゃないってことだな」
「巨人が全部いなくなって、誰もがみんな安心して暮らせたら最高だよな」
「私たちがそれをやる!」
「さすがタゾロさんっす!」
タゾロと早朝のランニングを継続しているギータは、ただただ目を輝かせて称賛している。
「いつか…」
マヤが静かに夜空を見上げる。
「調査兵団も憲兵団も駐屯兵団も解散できたらいいな…。兵士なんか必要のない平和な世界になってほしい」
「そうだね」
ペトラも見上げた夜空には、星が明るく輝いている。
「兵団がなくなって、壁もぶっ壊したときが俺たちのゴールなのかもな」
エルドも見上げた空は、月の出ていない晴れた夜。星の輝きがまるで月のように明るい。
「そのためにも、もうちょい頑張るしかないよな」
グンタが仕方がないよな… といった声色でつづく。
「あぁ」
「俺たちがやるしかないもんな!」
「任せて! やってやるわよ、ね? マヤ!」
「うん」
焚き火を囲んで皆の想いがひとつになって。
ずっと黙って聞いているリヴァイの瞳に映るのは、澄んだ秋の星月夜。