第30章 映る
「その点エルドさんはイケてるけど彼女持ちだし。やっぱ調査兵団にはいない! だから他で見つける」
「……他?」
「うん。この全周遠征訓練が私に与えられたチャンスよ。宿泊するかどうかは日程の関係で未定だけど、立ち寄りは絶対するじゃない? ユトピア区の駐屯兵団に」
「えっ、あぁ… うん。そうだろうね」
「神秘の最北の地、ユトピアに未知の出逢いが待っている!」
ばしゅっと音がする。どうやらペトラが暗闇のなか天井に向かって突き出した、こぶしの風切り音らしい。
「そのときは協力してよね」
「……了解」
「さっ! ユトピアの出逢いに向けて早く寝なくちゃ。美肌には睡眠が大事だもんね。おやすみ!」
「おやすみ…」
何がなんだかわからないうちに、ユトピア区の駐屯兵との新しい出逢いとやらのセッティングを頼まれてしまったマヤ。
……新しい出逢いって本気なの? 協力するってどんな?
戸惑っているうちに、もう隣からはペトラの寝息が聞こえてくる。
明日の朝は早い。
とにもかくにも眠らないと、訓練に差し支える。
考え事ならば、馬上でできる。
マヤは無理やりにも目をかたくつぶって、深い眠りに落ちていった。
翌朝、サビの得意の卵料理を腹いっぱいに詰めこんで、調査兵団の一行は全周遠征訓練を再開した。
「明日か、遅くとも明後日にはここを出られると思う。ユトピアに着いたら、最低限顔だけは出しとけよ」
ジョニーとダニエルとともに残るミケが、リヴァイと話している。
リヴァイはオリオンに騎乗しているので、今だけミケより目線が高い。
ミケを見下ろす形になっているからか、リヴァイの機嫌がすこぶる良いように見受けられる。
だからか、いつもならば儀礼的に駐屯兵団のトップに挨拶をしろなど命じれば舌打ちでもしそうな状況なのに、リヴァイは素直に了解とうなずいた。
「サビ、世話になったな」
馬上からだとさらに小さな老婆のサビにひとこと。
サビはサビで、これまたひとことで返した。
「あんたの匂いを、いつかまた嗅がせておくれ」
リヴァイはOKともNOとも答えずにくるりとオリオンの向きを変えると、出発した。
「「「サビさん、ありがとうございました!」」」
次々とあいさつの声が飛んで、リヴァイ班をはじめ一行がリヴァイの後につづく。