第30章 映る
「教えるようなことは全然…」
「もう今さらいいって。マヤは “あれ” の先輩なんだから」
「“あれ” の先輩って…」
ペトラの言い方にマヤは暗い部屋の中で顔を赤くしていた。
「私だってすぐに、あれやこれやと頑張っちゃうんだからね。そのためにも早く彼氏を作らないと…! うんそうだ、作ろう」
もう明日にでも恋人ができそうな勢いだから、マヤは訊いてみる。
「……候補の人がいるの?」
「いないよ、いる訳ないじゃん。大体調査兵団は変人の巣窟って言われてんのよ、知ってる?」
「知ってる」
「そのなかで兵長と団長だけが変人を通り越して、なんかやたらイケてるツートップでさ」
かつて兵長派代表だったペトラの瞳は、暗闇のなかで生き生きと輝いている。
「残念ながら兵長はマヤのものだし、団長は一般的にはイケてても私のタイプじゃない。あとは全然誰もいないじゃん」
「……そう?」
「そうだよ! やっぱ自分より強くないとヤなとこあるからさ…。そうしたらミケ分隊長は鼻変人、ラドクリフ分隊長は花しか興味ない花変人でしょ? モブリットさんはハンジさんしか見てないし、ゲルガーさんは飲んだくれだし、アーベルさんは…」
ぶつぶつと色んな先輩の名前を出してはケチをつけているペトラに対して、苦笑いをするしかないマヤ。
「ねぇペトラ。その理屈でいけば調査兵団で一番強いのはリヴァイ班なんだから、リヴァイ班の誰かが候補になるんじゃない?」
「え~っ…」
暗闇でペトラの顔は見えなくても、今思いきり嫌そうな顔をしているのがわかる声。
「オルオは論外、グンタさんは石ころみたいなもんじゃん」
「石ころ…?」
何を言い出すのかとマヤの声がひっくり返った。
「石ころっていうかイガグリっていうか、なんか頭がそんな形」
「………」
ペトラのひどい言い様に言葉が出ない。