第30章 映る
「それ私も思ったし、兵長も…」
ペトラにつられてマヤもひそひそ声になってしまう。この丸太小屋の造りは非常に頑丈そうだから隣の部屋で聞き耳を立てていても、まず聞こえなさそうではあるが。
「兵長も同じこと思ったんだ」
「そうなの。でもね、サビさんが分隊長のことを “鼻が利かない” から大丈夫だって言ったらしいの」
「へぇ…、鼻が利かないね…。あのミケ分隊長に対してそんなこと言うのなんて…」
どうやら100%皆、同じ感想を持つらしい。
「「サビさんくらいだよね!」」
ペトラとマヤは顔も声も合わせて笑った。
ひとしきり笑ったあとにペトラがふわ~っと大きなあくびを一つして。
「寝よっか」
「そうだね、寝よう」
マヤは扉のそばに吊ってあるランプの火を消して、ベッドにもぐりこんだ。
「おやすみ」「おやすみ」
ペトラはマヤより寝入るのが早い。
だからマヤはうとうとしながらも、今にペトラの寝息が聞こえてくるものかと思っていたら。
「マヤ…、起きてる?」
「うん」
「実はさ、ちょっとだけ見えちゃったんだよね。マヤと兵長がさっと離れるところ。抱き合ってたんでしょ?」
……見られてたんだ…。
マヤはとっさに何も答えられない。
「……言いたくなかったら別にいいんだ。ただ謝りたかっただけ。ほんとにごめん!」
“ううん、別にいいのよ、大丈夫” と言いたいのに、暗闇でくちびるが動いただけで声が出なかった。
「オルオに釘を刺されてたのにさ、馬鹿だよね。でもね…、ちょっと嬉しかったりする」
「……え?」
ペトラの “嬉しい” の意味がわからなくて、出なかった声が部屋に飛び出ていく。
「マヤと兵長がちゃんと…」
「……ちゃんと?」
ペトラが “ちゃんと” のつづきを言わないから、気になって仕方がない。
「言わなくたってわかるでしょ? あれだよ、あれ」
「あれ…」
「そう、あれ」
“あれ” がキスのことなのか、抱き合っていることなのか、さらにその先のことなのか全然わからないが、とにかくそのうちのどれかだろう。
「あぁあ~! 私も早く彼氏作ってあれしたいな~! ……そのときは色々と教えてよ」