第30章 映る
「そうだけど地下街に行くイメージだけで、兵長のおうちのことは考えてなかったのよ。地下街に兵長のおうちはあるの?」
首をかしげているマヤに、ペトラが強めに突っこんだ。
「あるの?ってマヤが知らないのに私が知ってる訳ないじゃん!」
「そうだよね…。兵長ってずっと兵舎にいるでしょう? 一回も地下街に帰省してるって聞いたことないし」
「確かに。有名なゴロツキだったらしいし、家とか元々ないんじゃない? あっても家じゃなくてアジトとか」
「家とアジトは、どう違うの?」
すかさず入ったマヤの問いに、言葉が詰まるペトラ。
「………」
「あっ、わかった。アジトはゴロツキが集まる隠れ家じゃないかしら?」
「そう、それよ! 今度兵長に訊いといて、地下街にアジトはあるんですか?って」
「そんなこと訊けないわ。ペトラが訊いたら?」
「やだよ、そんな失礼なこと」
「じゃあ私だって嫌よ」
「だってマヤは彼女なんだから、ちょっとくらい失礼なことでも訊いて大丈夫だって」
マヤがリヴァイに何を言っても大丈夫だと、ペトラは謎の確信を持っている。
「そうだ。兵長に訊いてくれた?」
「何を?」
「兵長がマリウスのお兄さん…、名前なんだっけ?」
「ナリスさん?」
「そう、ナリスさんだ。ナリスさんと兵長が何を話してたのかって訊いてくれた?」
「……訊いてないけど。それ、訊くことになってたの?」
全くそんな約束をした覚えはないマヤは、目をパチパチさせている。
「なってたっていうか、知りたいし。訊いといてよね」
「わかったわ」
少々ペトラに振りまわされている感のあるマヤだが、それも含めてペトラが好きだ。
「サビさんの話もした?」
「うん、したした」
「やっぱり。すごいもんね、あの嗅覚」
「そうね、さすが分隊長のお婆様だわ」
「だね! でもさ…」
ペトラが誰かに盗み聞きされるのを恐れるかのように、きょろきょろと周囲を見渡して声を落とす。
「あんなになんでもかんでも匂いで当てるのって怖くない? っていうか分隊長も巨人の接近や食堂のメニューを当てる以外にも、実は色々匂いで知ってたりするのかな?」