第30章 映る
「マヤ、どっちにする?」
二人に割り当てられた二階の部屋で、ペトラがどちらのベッドにするか訊いてくる。
「どっちでもいいよ」
「じゃあ私、奥のでもいい? 実はさっきダイブしちゃったんだよね。だからシーツが皺くちゃなんだ」
そう言われてよく見てみると、確かに窓際のベッドは使用感がすごい。
「わかった。じゃあ私はこっちね」
マヤは微笑んで、手前のベッドに早速腰をかけた。
ペトラがいきなり現れたときには驚いて、恥ずかしくて、逃げるようにその場を離れてしまったが、今はもうすっかり落ち着いている。
紅潮した顔を見られてはいけないとペトラから顔を背けてばかりだったが、もう大丈夫、正面から顔を見られても平気。
「ありがと!」
ペトラが向かいのベッドに座った。
「ねぇ、ほんとに邪魔しちゃったんじゃない? 兵長とのラブラブタイム」
「………」
いきなり避けたい話題になった。
「何を話してたの?」
ペトラは全く悪気のない顔でいる。ただの純粋な好奇心だとわかる。
「ジョニーとダニエルのこととか、毒ぶゆのこととか…」
ペトラの質問に答えようと、何を話していたのか思い返す。
「そうだ、地下街には病院がないんだって」
「地下街? ……あっ、兵長の故郷か。地下街の話なんかするんだ?」
「うん。クロルバに来てもらったから、いつか地下街にも行きたいって言ってる」
「へぇ~、なんかそういうのいいね!」
「そう?」
「うん、憧れる。私もカラネスじゃない彼氏を作って互いの故郷を行き来したいな」
マヤの脳裏にオルオが浮かぶ。
「もし彼氏が同じカラネス区だったら?」
「え~、なんか新鮮味がないけど…。でもまぁいいわ、家までは知らないんだから互いの家を行き来する! 泊まり合いっこしたり。それはそれでありかもね」
なぜかペトラの脳裏にもオルオが浮かんだらしい。
「だからオルオなんか絶対にないわ。家どころか部屋も台所もトイレも、全部自分の家みたいなもんだし」
「あはは…」
「いいな~、マヤは。自分の家に兵長が遊びに来て、いつかは兵長の家に行くんでしょ?」
「うん、そうなのかな…?」
「何よ、その返事。地下街に行くって言ってるんじゃなかったの?」