第30章 映る
リヴァイはマヤのとろけきった顔を見るために、くちびるを離した。
「いい顔をしている…」
官能的な激しい口づけに放心状態のマヤを見ると、満足そうにささやいた。
「兵長…」
焦点が合わない。
リヴァイに与えられた甘い刺激に朦朧としているマヤは、ぼやけて映るリヴァイにすがりつくように腕を伸ばして抱きついた。
「おい…」
先ほどまで放して放してと逃げていたくせに、潤んだ瞳で見つめながらしがみついてくるマヤが愛おしくて仕方がない。
リヴァイはぎゅっと抱きしめて、今度は優しいキスをする。
ちゅっちゅっと慈しむようにくちびるを啄む。
「……そろそろ話せよ…」
先に身体に快感を刻まれてからの心を満たすような優しい愛撫。
さらさらの黒髪が揺れて、切れ長の瞳に射抜かれて、やわらかいくちびるから愛が伝わって。
そしてずっと二人を包むリヴァイの匂い。マヤの匂い。
「兵長がすごく…、いい匂いがするから…」
「いい匂いがするのはマヤだろうが…。ここも…」
リヴァイはマヤの髪を嗅ぐ。
「ここも…」
髪から耳へ移動して、耳の穴に鼻の先を突っこんで耳たぶをはむはむと噛みながら。
「ここも…」
そのまま首すじに下りてきて顔をうずめる。
「どこもかしこも甘い匂いを発散させやがって…」
「兵長だって…」
リヴァイがマヤの喉もとから鎖骨のあたりに顔を密着させて匂いを嗅いでくるから、今マヤの鼻先にはリヴァイの頭がある。さらさらの黒髪から、白く細いのに筋ばった首から、どうしようもなく惹きつけられるフェロモンのような香りが漂ってくる。その香りを吸いこむと心臓もおなかの奥も、きゅんきゅんと甘く疼く。
「ハッ、互いにいい匂いがするって言ってりゃ世話ねぇな…」
リヴァイは口づけていた鎖骨から頭を上げると、マヤの顔を真正面から見つめた。
「マヤ、お前が欲しい…」
唐突に放たれたリヴァイのささやき。その声は低くかすれていて。
「………!」
まるで全身が心臓になったかのように鼓動が身体を震わせる。
この美しい月夜のもと世界にたった二人しかいないような感覚におちいるほど、マヤにはその言葉が強く響いた。