第3章 調査兵団
────847年────
マヤが西方訓練兵団に入団してから、三年の月日が経っていた。
すべての訓練課程を修めた今、マヤも同期の訓練兵も皆、三年前とは比べ物にならないほど大人になり自信に満ちあふれた顔をしている。
訓練兵団に入団してから一年後に、シガンシナ区が突如現れた超大型巨人と鎧の巨人によって陥落し、人類はウォール・マリアを放棄せざるを得なくなった。
西方訓練兵団に所属する訓練兵にも、大きな衝撃が走った。
訓練兵団に入団したとはいえ、実際に巨人と戦うことは想定していない者がほとんどだったからだ。
何しろ百年もの長い間、壁が破られたことなどなく安寧を貪っていたのだ。無理もないであろう。
各人の訓練兵団への入団理由は様々であった。
純粋に良い暮らしをするために憲兵団入団を目指す者、訓練さえしていれば住む場所と食事に困らないからと入団した者、女子の中には将来の結婚相手を探すため…などという理由の者すらいた。
しかし、マヤは違った。
訓練兵団に入団したのは、調査兵の一員になるため。
それは巨人の前に命をさらすことを意味していた。
その日は翌日に、調査兵団の新兵勧誘式を控えていた。
マヤはいつも行動をともにしているリーゼと、中庭のベンチに座っていた。
「マヤの順位があとひとつ上だったら… 一緒に憲兵団に入れたのにな…」
悔しがるリーゼの成績は9位、マヤは11位。
しかしマヤは上位10名に入っていたとしても、調査兵団に入団すると決めていた。
「リーゼ、私は… たとえ首席だったとしても… 調査兵団にいくよ」
「どうして?」
「……自由でいたいから… かな」
「自由?」
「うん」
マヤの脳裏に遠き幼い日の一場面が浮かぶ。
「お嬢ちゃん、君は自由なんだ。あの鳶(とび)のように」
……その人の背には、自由の翼がはためいていた。
マヤは遠い目をしながらもう一度つぶやいた。
「自由でいたいから…」
「ふふ、変なマヤ!」
リーゼは、鼻に皺を寄せて笑った。