第30章 映る
しばらくのあいだ一行は、何も語らずただ先頭のミケを頼りに先を急いだ。
背後の壁はみるみるうちに小さくなり、やがて奥深い森の木立で見えなくなった。
平原ではまだ日中はからっとした暑さが残る日差しも、鬱蒼とした森の深部では届くこともなく、身震いするほどにひんやりとしている。
「どこまで行くんだろうね…?」
マヤの隣を走っていたペトラが、不安そうな顔で覆いかぶさるような森の樹々を見上げる。
「……そうだね。この森を抜けたら村があるのかも」
「マヤはこのあたりは詳しくないの?」
「うん、全然知らない土地よ」
ほどなくしてマヤの予想は当たったような、当たらなかったような。
森を抜けるには抜けたが、すぐに次の大きな森… いや樹海が待ち受けていた。そしてその新たな樹海までのわずかな平地には村ではなく、大きな小屋が一軒ぽつんと建っている。
太い丸太で造られた小屋の三角の屋根から突き出た煙突は、もくもくと煙を吐き出している。
近づくにつれてマヤたちは、その小屋の周囲におびただしい数の鶏が放し飼いにされていることに気づいた。
「何あれ、ニワトリ…!?」
ペトラの顔がひきつっている。
「ものすごい数だね」
コッコッコッコッケッコ! コケーコッコケッコケッコ!
やはり目的の “治療できるところ” は、この大きな丸太小屋らしい。
ミケが馬からおり、皆もならうが、いかんせん鶏の数が多い。
コッコッコッコッケッコケッコ!
おまけにここの鶏たちは、前ぶれもなく現れた大人数にも馬にも全く動じずに、コッコッコッコと寄ってくるので踏みつぶしそうになる。
「うわ! なんだ、こっち来んな!」
オルオの周りには特に多くの鶏がいて、焦っている。
ミケの指示で丸太小屋を中心に取り囲んでいる木の柵に馬をつないだ。
「……いると思う。先に入って様子を見てくるから」
そうつぶやくようにリヴァイに告げて、ミケが歩き出す。
そのやたら背の高い後ろ姿と、もくもくと煙を吐いている煙突を睨んでリヴァイもつぶやいた。
「いるだろうな」
二人のつぶやき合戦を間近で聞いていたタゾロは声には出さなかったが、“いるって誰が?” と思っていた。
……この小屋の住人だよな。治療できるところの住人だから医者か?