第30章 映る
……アイタ!
なんだ? 蜂か…?
バチン!
あはは、蜂に刺されるなんてだっせ!
ダサくて悪かったな。
イテテテ! 俺も刺されたわ…!
「昨日の休憩のときに、ジョニーが小さな蜂に刺されたんです。すぐに叩き潰したけど、ダニエルも刺されたって言って…。でも二人とも全然痛がってなかったっすけど」
「「「それだ!」」」
エルド、グンタ、オルオの三人が声を合わせた。
「どこを刺されてた?」
「二人とも首っす」
すぐにマヤとタゾロが首のあたりをさぐる。
「ここ…、腫れてるし熱を持ってるわ」
「ジョニーも同じだ。ここを刺されたと思う」
二人とも患部を見つけたようだ。
「でもよ…」
オルオが首をかしげている。
「蜂に刺されたの昨日なんだろ? 今頃ぶっ倒れるっておかしくねぇか?」
「……だよな! 丸一日経ってる訳だし」
グンタも激しく同意している。
「……蜂ではないのかも」
ミケが何かを知っているらしい。
「毒蚋(どくぶゆ)かもしれないな…」
「毒ぶ…?」
なんだそれは?といったリヴァイの眉間の皺は厳しい。
「毒ぶゆだ。蜂よりも小さな、特徴のない地味な虫なんだが刺されると厄介だ。刺されたときはチクリとするくらいで大したことはないが、時間が経つにつれて腫れてくる。人によって痛かったり痒かったりするみたいだが、熱が出るのは共通している。最悪死ぬ場合もある」
「やけに詳しいじゃねぇか」
「………」
ミケは答えず、壁より遠く離れた内地の方向を眺めている。
「治療できるところを知っている」
リヴァイはすぐに反応した。
「タゾロ、ギータ。馬に乗れ」
「「了解です」」
タゾロは支えていたジョニーを隣のエルドに託すと、愛馬ヒュロスに飛び乗った。ギータもグレーノスに騎乗する。
「ミケ…」
ミケはリヴァイが何を求めているのかすぐに理解したらしい。
意識のないジョニーとダニエルをひょいと抱きかかえると、それぞれタゾロとギータの背後に抱きつかせる姿勢で座らせた。そして落馬しないようにロープで結わえる。
「ジョニーとダニエルの馬はエルドとグンタが面倒を見ろ」
「「了解」」
「すぐさま出発だ」
こうして “治療できるところ” とやらを目指してミケを先頭に、一行は全周遠征訓練の壁沿いのコースを逸脱して内地の森に向かった。