第30章 映る
意識のないダニエルの顔は紅潮しており、マヤが額に手を当てれば驚くほど熱い。
「熱があるわ…」
次に手首を取り、脈を測る。
「どうだ…?」
心配そうなタゾロの声。
「速いです。息も荒いし」
「心当たりがあるやつはいるか?」
リヴァイの問いかけに、ジョニーがおずおずと右手を挙げた。
「兵長、実は俺もさっきから… その…、気分が悪くて…」
と言うか言わないかのうちに崩れ落ちるジョニー。
「ジョニー!」
一番そばにいたタゾロがジョニーを抱きかかえる。
「……すみません…、タゾ… ロさん…」
「馬鹿、謝るな!」
タゾロの腕の中でジョニーはあっという間に気絶した。
「どうなってるんだ! 兵長、分隊長! こいつも熱があります」
ジョニーもダニエルと同じく意識を失い、発熱して呼吸が乱れている。
「一体何があった…」
大切な部下が二人も原因不明の発熱で昏倒したのだ。リヴァイの声色には得体の知れない状態への懸念が色濃く出ている。
「ギータ」
ミケがギータに声をかける。
「いつも三人でいるだろう? 何か心当たりは?」
「……ずっと思い返してるんですが…」
ギータは左のこぶしをあごに当てて、必死で記憶をたどっている。
……今日はずっと走って、休んで、また走って。
特に何もない。昼メシだってマリウスさんの親父さんが持たせてくれたもので、ここにいる全員が食ったが皆なんともない。朝食も昨日の夕食も… 全部美味くて。食あたりではなさそうだ。
じゃあなんだ? 風邪でもひいたか? いやそれはないよな、ジョニーとダニエルが同時に倒れるなんて。流行り病なら二人だけではすまないはずだし。
ほんと一体なんなんだ。
「駄目です。これといった事は特に何も…」
ギータがあきらめて皆より高いところにあるミケの顔を見上げたとき。
「あっ」
きらりと太陽の斜光が目に入り、その瞬間に何か一瞬記憶がよみがえった。