第30章 映る
「はぁ? 野宿なんて楽しくないし!」「楽しくねぇし!」
二人に揃って否定されてがっかりするマヤだったが、その一方で二人の息がぴったりで嬉しくなる。
「ふふ」
「何がおかしいの」
「だって仲いいから」
「もう、何言ってんのよマヤ。意味わかんないから。仲なんて良くないし、野宿なんかよりふかふかのお布団の方がいいに決まってるじゃない」
頬をふくらませているペトラと、それを可愛いと思って見つめているオルオとマヤの耳に集合をかけているタゾロの声が聞こえてきた。
「あっ、休憩終わりみたいよ。行こう!」
皆から少し離れた木の下で休んでいたマヤたち三人は、急いで合流した。
それから数時間が経ち、そろそろ夕焼けの気配を空が放ち始めたころ。
「………?」
マヤは前を走るダニエルの背中に違和感を抱いた。
……なんだろう? まるで人形のようだわ。
ダニエルの背中には馬と駆けているときの独特の躍動感がなく、こわばっているように見える。
……気のせいじゃないわ。クテーシッポスの足並みもおかしい!
そう直感で異変を確信したマヤは、すぐさまアルテミスとともにダニエルの元へ駆けつけようとしたのだが。
どぉぉぉっ!
人形のように硬直していたダニエルの上半身がぐらっと揺れたかと思うと、そのまま落馬した。
ヒヒーン!
主の落馬に悲痛ないななきを上げて、クテーシッポスが前脚を上げて立ち止まる。
「ダニエル!」
ダニエルの落下して地面に激突する音、クテーシッポスのいななき、マヤの叫びによって、全員が異変を知った。
すぐに先頭のリヴァイから、殿(しんがり)のミケまで集まった。
「おい、何があった」
「わかりません。ちょっと様子がおかしいと気づいたときには落馬してしまって…」
一番にダニエルのもとに駆けつけ、気を失っているダニエルを膝の上で介抱しているマヤの声は震えている。