第15章 壁外調査までのいろいろ
「そんな顔しない~! もうね、全然平気なんだからさ。彼は私の心の中で生きてるし、彼の教えもこの先ずっと守っていく。それに…」
「それに…?」
「次に… 大切な人ができたら…、早く自分の気持ちに気づきたいと思ってる」
きっぱりと言いきったナナバの顔は、清々しさに満ちあふれていた。
「自分の気持ちに気づく…」
「……そう。まずはそこからだよ。私はどうも恋だの愛だのに鈍感みたいでさ…。でも今度こそ自分の想いを見つけてあげたいんだ」
ナナバは先ほどから熱心に話を聞いているマヤに、ふわっと優しい笑顔を向けた。
「マヤ、正直よくわからないんだろ? 気になってる人がいるようないないような…。私も一緒だよ。いるような気もするし、やっぱいない気もする。勘違いかもしれないと思う。でもどうしてだか急に、その人のことが浮かんだりする…」
……どうしてだか急に、その人のことが浮かんだりする…。
ナナバのその言葉にマヤはまた、去っていくリヴァイ兵長の背中を湯煙の向こうに感じる。
「ナナバさん、ある人が浮かんだとして…、それってその人のことを好きなんでしょうか? 嫌いな場合もあるんじゃないかな…」
「ん…。ま、そういう場合も無きにしもあらずだけど。でも嫌いな場合は浮かんだ途端に嫌な気分になってすぐにわかるんじゃない?」
「………」
……私は兵長を思い出すとき、嫌な気分なのだろうか?
よく… わからない。
ペトラを泣かせるような言葉を口にした兵長… 女性を見下すような考えの兵長が、許せなかった。
急にお茶の時間に来なくなって、その上なぜだか知らないけれど避けられて…。
……お前は隙だらけだ… 無防備すぎるのも大概にしやがれ…。
迫りくる白い顔。
顔を真っ赤にして泣いていたペトラ。
……何もかもが嫌だ。もう考えたくない…。
私… 兵長が嫌い… なの…?
「ナナバさん、私… 本当にわからない…」
マヤは、消え入るような声でつぶやいた。
「自分の気持ちに無理しなくていいんだよ! わかるときが来たらわかるさ。私も今はまだはっきりしないけど、きっといつかって思ってるところ!」
マヤを励ますナナバの大きな声が、今や二人しかいない浴場に明るく響いた。