第30章 映る
リヴァイから宿泊許可をもらったあとにペトラと二人で実家に行き、さぁ紅茶を飲みましょうとなったときに、紅茶屋に入ってきたオルオと新兵三人組。
狭い店内のことゆえ、男四人が押しかけたとなるとぎゅうぎゅう詰め。
立ち飲みでもいいからどうしても紅茶を飲みたいと言うオルオたちに、マヤの父のジョージは大喜びだ。
「こんなに大勢のマヤの仲間が来てくれるなんて。腕によりをかけないとな!」
湯を沸かしながら腕まくりをするジョージ。
「お父さん、張り切りすぎ!」
「当たり前だろ」
そこへ母のルチアがパウンドケーキを人数分切って、皿に乗せてやってきた。
「皆さん、ようこそ。席がなくてごめんなさいね」
カウンターに皿を置く。
「いやぁ、俺たちが勝手に押しかけたんで…」
恐縮して頭をかくオルオに、ジョージは紅茶を淹れる準備を着々としながら話しかけた。
「ところでオルオ… さんは、マヤのいくつ上なんですかね?」
「へ?」
「いやぁマヤは自慢の娘だけど、慣れない兵士なんて職務で先輩方にご迷惑をかけてるんじゃないかと…」
「やだ、お父さん! オルオは同期よ」
「えっ!」
「勘違いするのも無理ないです。こう見えてオルオは、私の幼馴染みの同い年」
補足説明するペトラと、困ったような苦笑いをしているオルオの顔を見比べてジョージは目をぱちくりさせた。
「いや、これは失敬! その、貫禄があるからてっきり先輩かと…。悪かったね」
「いいっすよ、年上に間違われるのには慣れてますから…」
「そうそう、オルオの老け顔が悪いんだから。みんな勘違いしちゃう」
「老け顔じゃねぇし! 貫禄のあるいい男と言ってくれ」
「………」
いつもは噛みつくペトラだが、つーんと顔を逸らしている。
そしてフンと強がってみせるが、その瞳に淋しさが見え隠れしているオルオ。
そんな二人の様子を眺めていたジョージとルチアは意味ありげに微笑みを交わして、ティータイムの準備をする。
ほどなくして小さな店内には、幸せを象徴するかのような紅茶の良い香りが漂い始めた。
「お待たせしました。どうぞ」
ルチアがペトラの前に置いたティーカップには、美しい燃えるような夕焼け色の紅茶が揺れている。