第30章 映る
「何? 何が違うのよ、マヤ?」
「答えが出ないなんてことはないわ。答えは出てる。家にいても巨人はいなくならない。だから私たちは壁外調査に行くのよ。巨人と戦うの。そして必ず生きて帰るの、家族のところへ。それしかないわ。それが答えなの。それ以外の答えがあるかもしれないなんて考えなくていい。今は戦うしかないんだから!」
凜とふるえるマヤの声は、決意と覚悟に満ちていて。
密着しているペトラにも、その鼓動は伝わった。
「うん、そのとおりだね! やるしかない!」
二人はぎゅうっと抱きしめ合うと、どちらからともなく離れた。
「こんなにひっついていたら眠れない」
「あっは、私も同じこと思ってた」
互いにあおむけになって、月明かりに照らされた部屋の天井を見上げている。
「……前のとき、兵長もこの部屋に来たの?」
「ううん。兵長は二階には上ってないわ。お店で紅茶を飲んだのと、一階で晩ごはんを食べただけよ」
「そうなんだ…。じゃあお泊り第一号が私なだけでなく、部屋に入ったのも私が一番なんだ」
「そうよ、ペトラが一番だよ」
「やったぁ!」
自分がすべて一番だとわかって満足したペトラは、今度は紅茶の話を始めた。
「マヤのお父さんの紅茶、すごく美味しかった」
「ありがとう」
「リックさんは色々すごくて、さすが紅茶の魔術師って感じで美味しくて、これが紅茶?って思うくらい紅茶の概念が変わるっていうかびっくりしどおしだったけど、マヤのお父さんは…」
ペトラは言葉を選んでいる風だったが、わざわざ天井を見ていた顔をマヤの方に向けてまでささやいた言葉は。
「なんか普通で、私が飲んできた紅茶だって感じの紅茶で、技に驚いたりとかそういうの全然ないのに… めっちゃくちゃ美味しかった! あれ? 私、褒めてるよね?」
「うん、褒めてくれてる」
「なんかマヤのお父さんの紅茶を飲んでたら、オルオともう口きかない! なんて思ってたのがどうでもよくなっちゃった」
そう言ってマヤに向かってぺろりと舌を出すペトラ。
マヤもペトラの方を向く。
「そうだったね。仲直りしたみたいだったから嬉しかった」
マヤはそのときの状況を思い返した。