第30章 映る
明らかにカラネス区の方がクロルバ区より発展している。
マヤが言っていたとおりに、ヘルネの方が店の数は多いくらいだ。
それでも…。
ペトラはクロルバ区で出会った人たちを思い浮かべる。
のんびりと鼻ちょうちんで居眠りしていたナダルさん。親切でダンディなマリウスのお父さんのディーンさん。マヤを見かけるたびに自分の娘のように声をかけてくる街の人たち。マヤのことを心から愛しているのが伝わってくるお父さんとお母さん。
……クロルバの人たちって、あったかいな…。
「私…、クロルバが好きになっちゃった」
ペトラは、マヤに抱きついている腕にぎゅっと力をこめる。
「ペトラが私の街を好きになってくれて嬉しい」
マヤも、ペトラをぎゅっと抱きしめた。
「ここの人たちってみんな、あったかいね…」
「ありがとう」
「ディーンさんもすごく優しくて…。あの言葉…」
ペトラの声が、小さくなってくる。
「ディーンさんの言ってること、刺さっちゃった…」
「そうだね…」
マヤの声も、小さくなってくる。
「人類のため… なんて言ってることは大げさな言葉になるけれど、結局は私たちは大切な人のため、家族のために巨人と戦っているのよ。でもそのことが家族を悲しませているとしたら…」
「そうだね。うちらが調査兵として戦って、それが家族を辛い目に遭わせてるんだもんね…」
「うん…」
「壁の外なんか出ていかずに、家にいながら、家族と笑ったまんまで巨人を倒せたらいいのに。巨人がいなくなればいいのに…」
「うん…」
「どうしたらいいんだろう…」
二人は狭いベッドの上で抱き合った姿勢のまま、どんどん気分が落ちていく。
………。
しばらくそうしていたが、急にペトラが叫んだ。
「やめやめ! そんなこと考えたって仕方がないよ!」
「うん、そうだね。答えが出ないことをくよくよ考えても仕方がない…。ううん、違うわ…」
マヤはそこまで言うと、黙ってしまった。