第30章 映る
まつられているマリウスの兵服に皆それぞれの想いを寄せて、目を閉じた。
「マリウスはいつも笑っていて…、太陽のようにまぶしいやつでした」
「マリウスに励まされて、何度も救われました」
「「マリウスさんは俺たちの憧れの先輩でした」」
「オレはマリウスさんのようになりたいと…」
口々にマリウスへの賛辞を贈るオルオたちに、アルシスは優しい顔を向ける。
「ありがとう、マリウスと同じ時を過ごしてくれて。短かったが、使命を全うして仲間に恵まれて… 幸せな人生だったと思う」
アルシスは兵服に縫いつけられた自由の翼のエンブレムを見つめている。
「調査兵団に入るということは崇高だ。巨人の脅威にさらされている人類にとって調査兵団は一縷の希望であり、私は調査兵を尊敬している。私はこの街で成功しているが、所詮壁の内側で私腹を肥やしているだけの存在だからね」
自虐的な笑みすら浮かべているアルシスの言葉にどう反応していいかわからずオルオたちは皆、目を見合わせている。
「だから心から巨人に立ち向かう君たちを勇敢で立派だと思うよ。だが…」
アルシスは急にひとりの親の顔になった。
「子を持つ親として考えてみたら違ってくる。勇敢でなくたっていい、立派なんてクソくらえだ。私はたった一度でもいい、マリウスの顔が見たい。笑っているあの子の声が聞きたい…」
「おじさん…」
クロルバ区の最重要人物であり、いつも余裕のある立派な姿を子供のころから見てきたマヤは、ひとりの親としての苦悩をさらけ出しているアルシスの姿に動揺を隠せない。
「マヤ、すまない…。弱いところをみせてしまったね。どちらも本心なんだ。立派に任務を遂行してもらいたいというのも、壁の外になんか行ってほしくないというのも。マヤ、そしてみんなも…、忘れないでほしい。君たちの家族はいつでも、君たちが帰ってくるのを待っている」