第30章 映る
内門のナダルのところから駐屯兵団の兵舎に直行したリヴァイ率いる全周遠征訓練隊の十一人。
訓練中に立ち寄ったことを伝え終わると、その後宿を取りに宿屋に出向いたが、マヤが懸念していたとおりに全員分の確保は無理だった。
二軒ある宿屋のうち大きな方にリヴァイとエルドとグンタ、小さな方にミケとタゾロが宿泊し、残りの六人は駐屯兵団の兵舎の空き室を使えるかどうか交渉しに再度駐屯兵団兵舎に行こうとしたときだった。
調査兵団一行がクロルバ区を訪れていると耳にしたアルシス・ディーンが、わざわざ挨拶に出てきた。
そして全員分の宿を確保できなかった事情を知ると、ぜひ自分の屋敷に泊まってくれと申し出た。
地元の名士の申し出にリヴァイは感謝の意を述べ受け入れた。そうして今、ディーン商会に世話になる六人、すなわちオルオ、ペトラ、マヤ、ジョニー、ダニエル、ギータがアルシスの案内で屋敷に来ている。
建物の一階と二階が店舗と事務所になっているので、皆は黙々と階段を上り、三階に到達した。
「うわぁ、広…!」
三階には大きなリビングルーム、ダイニングルームにキッチン、風呂とトイレがある。
「君たちには上にある空いている部屋に泊まってもらう。風呂はここにしかないがトイレは上にもあるから。長旅で疲れただろう? 風呂は沸いているから、いつでも好きなときに入りなさい」
「「「ありがとうございます!」」」
親切なアルシスに皆、感激している。
「あの、おじさん…」
マヤはリビングの端の立派な飾り棚にまつられているマリウスの兵服を見ている。
「そうだよ、マリウスだ。いつでも一緒にいられるようにね」
アルシスはマリウスの遺品をまつっている棚の前に行く。
「マリウス、マヤが来てくれたぞ」
「マリウス…」
そっと左胸にこぶしを当てるマヤ。
ディーン家の豪華なリビングに興奮して部屋をうろうろしていたペトラたちも、アルシスとマヤの様子に気づいて近づいてきた。
「ディーンさん、俺たちも手を合わせていいですか?」
「もちろんだよ。君は同期のオルオくんだね? そして君がペトラ」
「「はい、そうです」」
「君たち三人は同じ班に配属された新兵だね? みんなマリウスから聞いていたとおりだ」
アルシスは感慨深そうに目を細めている。