第30章 映る
隊の引率者二人がクロルバ区まで進むと決定したのをまるで知っているかのように、ペトラはクロルバ区に想いを馳せる。
「今日はこのままマヤの故郷のクロルバまで行っちゃうかもね」
「そうね、思ったより速いペースで来ているから。日没まで走りつづけるなら、十分に到着できるわ」
「もしそうなら、ちゃんとした宿で寝れるよね?」
「だと思うけど…。急にこんな人数が泊まれるかどうか…」
マヤはそんなに大きくはないクロルバ区の宿屋を思い浮かべて、眉を寄せた。
……相部屋ならいけるかな…?
あっ、私は実家に泊まればいいか。でも休暇じゃないから駄目…?
マヤが色々と考えていると、ペトラの楽しそうな声が聞こえてくる。
「宿でもいいけど、マヤんちでお泊まりもいいよね?」
「私もそれを思ったんだけど、調整日じゃないし駄目なんじゃないかな?」
「それもそうか。全員がマヤんちに泊まれないしね。私とマヤだけなんてわがまま許されないだろうし。じゃあ宿が満室なら、駐屯兵団の兵舎とかになるのかな?」
「そうかも」
「とにかく宿屋でもマヤんちでも兵舎でも…、どこでもいいよ、ちゃんとしたベッドのあるところなら」
「全周するあいだに野宿もあるだろうし、ベッドで休むことのできる日があるなら、ゆっくり休めたら助かるわね」
ペトラとマヤが意見を一致させたところで、ミケの声が響いた。
「休憩は終わりだ。各自馬をひけ」
それぞれ休憩していた全員がすぐさま自身の馬のもとへ駆け寄り馬をひくと、リヴァイとミケの前に整列した。
オリオンに騎乗したリヴァイが宣言する。
「今日の目的地はクロルバ区とする。引きつづき速度を維持しながら、壁の点検も怠るな」
「「「了解です!」」」
「行くぞ」
再びリヴァイを先頭に走り出す。
「本当にクロルバまで行くことになったね!」
ペトラが嬉しそうにアレナに飛び乗った。
「そうね。ペトラとオルオがクロルバに来てくれるなんて嬉しい」
「オルオはどうでもいいじゃん…」
「私には二人とも大切な友達だから…! アルテミス、行くわよ!」
爽やかな笑顔を咲かせて、マヤは愛馬とともに風を切った。