第30章 映る
「行っちゃったよ?」
心配そうなマヤの声を聞いて一瞬気まずそうな顔をしたペトラだったが、なんとも感じていないそぶりで強がった。
「行っちゃったね!」
そして先ほどからマヤばかりを見つめているギータをからかうことによって、話題を変えてみせた。
「ちょっとギータ、さっきからマヤの顔ばっか見てるよね?」
「えっ、あ…」
そばかすだらけの顔を真っ赤にして、うろたえる。
「別にオレ、その、見てませんから…」
「いやいや見てたよ、マヤの顔に穴があくかと思っちゃった」
「そんなことないっすから…」
「またまた~! ギータはマヤのことが好きなのかな?」
「違います…! オレはただ、マヤさんがう、う、う…」
「う…?」
「馬が好きなんだなって思ってただけで…!」
追いつめられたギータが答えた苦しまぎれを、まともに受け止めたマヤがペトラを軽くにらんだ。
「ちょっとペトラ、変なこと言わないで。ごめんね、ギータ。そうね、私は馬が好きよ。ギータも好き?」
「好きっす…」
ますます顔が赤くなって、ぷっしゅ~!と音を出して湯気でも出そうなほど。
「そう、良かった。グレーノスを可愛がってあげてね」
「了解っす…」
マヤがとんちんかんな受け答えをギータにしているころ、リヴァイはミケに軽く怒鳴られていた。
「おい、聞いているのか」
「………」
「さっきから何を見ている…」
ミケが自分を無視してリヴァイがどす黒い視線を飛ばしている方向を見ると、そこにはマヤが顔を赤くしているギータに笑いかけていた。
「原因は、あれか…」
あきれて鼻を短くフンと鳴らしてから、ミケは少しだけ優しい声を出した。
「ギータはマヤに憧れているだけだから、何も心配することはない。それより今日はどこまで行く? かなり飛ばしたから予定より進んでいるが…。このペースだとクロルバ区に着く」
リヴァイは視線をマヤとギータにロックオンしたまま答えた。
「新兵が三人もいるからな、初日はベッドで寝させてやろう」
怖い顔をしてギータを見ているにもかかわらず、口では優しいことを言うリヴァイを微笑ましく思いながらミケも同意した。
「そうだな、クロルバの宿で決まりだ」