第30章 映る
「いいじゃない、仲良くって」
「良くないわよ! なんか馬同士が仲いいと、私とオルオが仲いいみたいじゃない」
……実際なんだかんだ言っても、ペトラとオルオは仲がいいんだからいいじゃない。
とマヤは思ったが、もちろん今それを言葉にすればペトラの雷が落ちるとわかっていたので、黙っている。
声に出す代わりに、優しい気持ちで馬たちを眺める。
ブルブルブル!
ブブブブ、ブヒヒン!
ペトラの馬アレナとオルオの馬アレースが鼻先でじゃれ合っている。それはとても微笑ましく美しい光景だ。
「本当に可愛いなぁ…。ねぇ知ってる? アレナとアレースは実は双子の馬だって」
「えっ! そうなんだ。なんでそんなこと知ってるの?」
「前にヘングストさんに教えてもらったの。双子はめずらしいって言ってたよ」
馬が一度に産む仔の数は一頭が通常である。双子の馬が生を享ける確率は、千分の一とも数千分の一ともいわれている。そのような稀有な星のもと生まれたアレナとアレースの絆は深くて強い。
兵団がアレナとアレースをペトラとオルオにあてがったのは偶然とはいえ、実は必然だったのではないかと “運命” のようなものをマヤは感じた。
「双子なんだ…。じゃあオルオの馬鹿の馬だけどアレナと仲良くしてるのも仕方がないね、許す!」
「何が許すだよ、えらそうに!」
オルオが会話に加わった。
「ちょっと知ってた? アレナとアレースが双子だってこと」
「いや初耳。でも納得だな、いつもくっついてるし」
「可愛いよね。アレナとアレースがじゃれ合ってるのを見ると、どうしてもペトラとオルオを思い出しちゃう」
マヤは言うつもりがなかったのに、あまりにもアレナとアレースが愛らしくてつい言ってしまった。
「ちょっとマヤ、やめてよね! 馬同士は双子で仲良くても、私とオルオとは関係ないんだから」
マヤの言葉に一瞬嬉しそうな顔をしたオルオだったが、ペトラの辛辣な発言に負けじと言い返す。
「そうだな、関係ないよな! あぁ面白くねぇ!」
オルオは座っていた石から立ち上がると、エルドたちの方へ行ってしまった。